異例の演説であり、米英仏露中5カ国への痛烈な批判だ。
国連のグテレス事務総長は18日、「70年以上前に世界の頂点に立った国々が、国際機関の力関係の転換を必要とする改革を阻んでいる」と批判した。名指しこそないものの国連安全保障理事会で拒否権を持つ米英仏露中の5常任理事国を念頭に置いた発言で、注目すべき問題提起だ。
第二次大戦の戦勝国側で核保有国の5常任理事国は、国連組織で大きな影響力を持つ。国連事務局トップの事務総長選出や再選にも5カ国の承認は不可欠だ。
こうした中での指摘である。5カ国をはじめ、加盟国はグテレス氏の発言を重く受け止め、国連改革に真摯(しんし)に取り組むべきだ。
グテレス氏は、「安保理の構成や投票権」を挙げ、「不平等の解消は国際機関の改革から始めなければならない」と訴えた。
確かに、拒否権という特権の存在を含め、70年以上前に決められた安保理の形にこだわる発想自体が時代遅れだ。代表性や正当性の点で21世紀の国際社会を反映していない。
実際、ロシアは隣国ウクライナの領土を侵し、中国は東、南シナ海で海洋拡大を強めている。平和への責任を負うべき安保理常任理事国の2カ国が、国際秩序を破壊しているのだから、グテレス氏の提案は当然だ。
ロシアのプーチン大統領は改革の流れに逆行し、「常任理事国サミット」の年内開催を提案している。大国を誇示する唯一の場として利用しようとしているのだろうが、聞いてあきれる言説だ。
中国は中国で、香港国家安全維持法をめぐり米国が求めた安保理会合の開催を阻止した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けてグテレス氏が呼びかけた「コロナ停戦」決議も、米中の対立で採択まで3カ月以上も要した。
安保理改革では過去、日本とドイツ、インド、ブラジルなどを新たに常任理事国とする改革案が浮上したが、停滞している。拒否権を独占する5カ国が簡単にその地位を手放すとは考えにくい。
だが、日本は戦後、国際協力を通して世界の平和と安定に貢献してきた。今後も日本に果たせる役割は大きいはずだ。自由と民主主義という価値観を共有する国々と連携し、常任理事国拡大など、安保理改革の先頭に立つべきだ。