韓国から外国企業が次々と逃げ出している。2019年に韓国を撤退した企業は173社と前年の3倍近くに激増した。日本製品の不買運動やいわゆる元徴用工訴訟など「反日」の被害を受けた日本企業が最も多いが、米国や香港、中国、ドイツなどの企業も「脱韓国」を急いでいる。輸出や消費の低迷はコロナ禍で長期化し、文在寅(ムン・ジェイン)政権の失政も目立つ。外国企業を引き留める材料はなさそうだ。
韓国産業研究院の調査によると、韓国を撤退した外国企業は16年に58社、17年に80社、18年に68社と推移していたのが、19年には173社と3倍近くに急増した。一方で19年に新規に韓国に進出した企業は56社にとどまり、大幅な転出超過だ。外国企業にとって韓国が魅力的ではない状況が鮮明になった。
撤退企業の内訳は日本が45社と最も多い。調査担当者は「日韓関係悪化も影響を及ぼしたようだ」と分析している。
日本政府が昨年7月、安全保障面の懸念から半導体関連素材の対韓輸出管理を強化したところ、頭に血が上った韓国側が始めた日本製品の不買運動はいまも続いている。
韓国言論振興財団が公開した日韓両国民の意識調査に関する資料によると、「韓国国内で日本製品の不買運動があったことを知っている」と答えた韓国人は96・5%で、このうち実際に「日本製品の購入が減った」と答えた人は80・0%、「日本のコンテンツの利用が減少」と答えた人は69・4%に達した。
いわゆる元徴用工訴訟でも、1965年の日韓請求権協定による完全決着を無視して日本企業に賠償を命じる判決が出ており、資産の現金化も企業における大きなリスクになっている。
日本以外の企業も撤退を進めている。前出の調査では、米国が35社、香港が17社、ケイマン諸島が10社韓国を去った。
外国企業はなぜ韓国からの撤退を急ぐのか。韓国経済に詳しい朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は、「これまで政治と経済は別とされてきたが、米国と中国の対立が深刻になっている流れからすれば政治と経済の結びつきは強まるばかりだ。韓国は中国に輸出を依存している状況で、諸外国は米国ではなく中国側につくとみている。また条約など国同士の約束を守らないという側面もある。外国企業からすれば、その韓国に拠点を持つことはリスクとなるのだろう」と分析する。
中央日報は、大邱(テグ)市に工場を持つ日米出資のメーカーが撤退を決めたと報じた。大邱市長が撤退を考え直すよう書簡を送ったというが、決定を覆すことはなかったという。同紙は、韓国は法人税などの税率が高いため、香港国家安全維持法の施行を受けて、移転を検討する在香港のグローバル企業を呼び込むことは難しいとも推測している。
外国企業が韓国に背を向ける状況について、一刻も早く対策に乗り出す必要がありそうだが、文政権はあくまで強気の姿勢を崩さない。
洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政部長官は「5月から雇用状況は毎月着実に改善しているという点はファクトだ」と雇用の回復をアピールする。
その言葉とは裏腹に、7月の失業者数は統計を開始した1997年以降最悪となった。8月には失業率は改善したが、計算上の「分母」にあたる求職者数が減ったことによる現象で、失業者数は前年比で増加、就業者数も6カ月連続で減少している。
不動産価格の高騰も韓国の国民を苦しめている。文大統領が不動産政策について「過熱していた住宅市場が安定化し、住宅価格の上昇が落ち着きを見せ始めた」と説明したものの、実態とはかけ離れているとして、国民の怒りを買っている状況だ。
前出の松木氏はこう指摘した。
「文大統領は経済を支える財閥をはじめとした韓国式資本主義を否定しており、現在の不況を改善する気などそもそもない。不況になればなるだけ社会主義経済へと突き進むだろう」
多くの外国企業にとって長居は無用かもしれない。