「”慰安婦”問題」「”徴用工”問題」など、様々な日韓問題の中、日韓の関係が悪化し解決の糸口は中々見つからない。その間、「日韓が断交すべき」「日韓の国交がなくなってもよいのでは」などの声も聞こえている。
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それでは、日韓の国交が無くなると、両国には何が起きるだろうか?
真っ先にあり得る短期・中期的な影響は経済面(貿易通商面)での悪影響である。
日本にとって韓国とは、約二兆円前後の貿易黒字を筆頭に、観光、投資・金融、知的財産等で黒字をもたらす国である。国交が無くなった場合、これら経常収支上の黒字を円滑に得られなくなるリスクが生じる。
一方、韓国にとって、国交が無くなり、貿易通商と言った経済関係が断絶してしまった場合、短期的には「長年の念願」であった対日経常収支の赤字解消にはなる。
韓国の輸出産業である製造業にとって必須の部品、素材、工作機械等の多くは日本からの輸入に依存している。昨今の輸出管理を巡る紛争で韓国半導体産業の脆弱性を露呈させたように、韓国製造業にとって必須な物資を円滑に得られなくなるリスクが生じる。
1965年以前の日韓の「国交未成立期」において、政治的な国交が存在しなくとも、政経分離の原則の下、1949年の日韓通商協定のように経済的な融通は利かせて来た実例もあるのだ。このような協定が出来る場合は、長期的には問題やリスクは最小化し得るだろう。
しかし、日韓の国交が断絶して、政治的に公式の意思疎通のチャンネルが消失した場合、長期的には両国、そして東アジア地域全体に安全保障上の悪影響をもたらすことになるあろう。
勿論、短期・中期的には、日韓両国は第三国や国際機関等で、また日韓両国の利益代表として中立的な「第三国」を介して、非公式的に、また間接的に政治的な意思疎通が維持されるだろう。その第三国としては、主に米国が想定される。
しかしながら米国を介した、日米同盟や米韓同盟の間接的な「三角同盟」や安保体制は、この間、日韓両国の衝突や対立を防止していただけではなく、北朝鮮、中国、台湾、ロシア(旧ソ連)と言った東北アジア諸国間の衝突や対立を防止していたのは周知の事実だ。昨今の情勢下では、その衝突や対立に香港も含まれる可能性がある。
日韓の国交が断絶した場合、今まで東北アジアの不安定要素を解消してきた「三角同盟」は日米同盟と韓米同盟の二つの同盟に分裂する。日本と韓国に駐屯する米軍の軍事的な運用も、有機的な結合をなし得ず、その抑止効果を発揮しなくなる恐れが現実のものになる。そして結果的に日韓両国のみならず、東北アジア地域全体の安全保障上のリスクをもたらし得る可能性が大きくなるだろう。
米国のみならず、日本や韓国も各々が、東北アジア地域全体の安全保障上のリスクを回避すべく、日韓両国間に存在し得る国交消失・断絶のリスクとなり得る対立要素を、善悪理非ではなく現実政治的な観点から、適切に管理・統制していく必要があるはずだ。