中曽根康弘元首相の合同葬に合わせ、政府が全国の国立大など教育現場に弔旗の掲揚や黙とうで弔意の表明を求めていることが明らかになった。日本学術会議問題に続き、新たな「政治介入」とも取れる政府の動きに各地の教育関係者からは批判や疑問の声が相次いだ。
【写真】中曽根康弘元首相の「桜を見る会」(1983年)
大阪大の男性教授は「思想統制のようで、単純に気味が悪い。国葬でもないのに、『国立』と名の付く組織に勤務しているだけで従う義理はない。何か勘違いされているのではないか」と不快感を隠さなかった。菅義偉首相が学術会議から推薦された新会員候補を任命しなかった問題にも触れ、「国から金をもらっているところは全て政府や自民党に従えということか」と疑問を呈した。
北海道大の50代の男性教授も「政府の対応は明らかにやり過ぎで国民目線からずれている」と批判。「中曽根元総理は日本にとって大きな存在だったかもしれないが、個人がそれぞれ弔意を示せばよい。政治家が指示したとしても、官僚がストップをかけなければならない」と指摘した。
京都大大学院生の男性(29)は「明らかに大学への政治の介入だ。京大は自民党ではなく、あくまでも国立大であり、弔旗の掲揚はおかしい。大学は政治の要求を断れば予算が減らされることも考えられ、なし崩し的に政権の言うことを聞くような大学に変えられてしまう」と危機感を募らせた。
京都大職員組合前委員長の駒込武・京大大学院教育学研究科教授は「日本学術会議の問題もそうだが、公務員は政府の見解に従えということだろう。菅内閣は『国家の命令に従え』という体制に国を変えようとしている」と話した。
琉球大の男性教授は「一種の強制であり、学問の自由や思想信条の自由など世の中の基本を支えている仕組みをつぶすような行為だ。これでは大学が国にそんたくするような風潮がますます強まっていく」と懸念した。
◇大阪府教委、府立校に送付せず
都道府県教育委員会にも、加藤勝信官房長官の名前が入った同様の通知が参考として送付された。14日に通知を受けた大阪府教委は内部で対応を協議。特定政党への支持や政治的な活動を禁じている教育基本法14条に抵触する恐れがあると判断し、高校などの府立校には送付しないことを決めた。【近藤諭、松本光樹、石川将来、福富智】