島根県出雲市の民家で今月、160匹以上の犬が8畳2間にすし詰め状態に置かれていることが、県や動物愛護団体への取材でわかった。無秩序な飼い方で世話が難しくなる「多頭飼育崩壊」が起きていたとみられ、団体は飼い主の同意を得た上で、県出雲保健所と連携して、来月上旬、全頭の一斉不妊・去勢手術に踏み切る。(中村申平)
■床に排せつ物散乱
県などによると、民家は平屋建て住宅で、家族3人暮らし。8畳2間に計164匹の犬が重なり合うように飼われている。床には、排せつ物が散乱するなど劣悪な状態で、一部の痩せた犬は排せつ物を食べて命をつないでいた。飼い主は多くの犬と寝食をともにし、通勤もしていたという。
県は、数年前から飼い主に不妊手術や犬の譲渡を何度も勧めていたが、応じないままだったという。狂犬病予防の指導で、保健所担当者が訪れたこともあったが、訪問を拒否せず、指導もスムーズだったことから、特に問題視していなかった。
近隣住民からは今年春頃、鳴き声の苦情がわずかにあった程度で大きなトラブルはなく、犬に衰弱や虐待の痕跡もなかったという。県は多頭飼育崩壊に対処する指針などは定めておらず、「動物愛護法に基づく立ち入り調査にも乗り出せなかった」とする。
■愛護団体が飼い主説得
こうした状況を見かねた動物愛護団体が飼い主を説得。県を通じて、全国で犬や猫の不妊手術に取り組む公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市)に救済を要請したという。
要請を受けた佐上邦久理事長(60)は今月19日、現場を視察。住宅内の棚や台所の流し台にまで犬がおり、「まるで満員電車にいるようだった」と振り返る。佐上理事長は、一般家庭での多頭飼育崩壊としては最も多いケースの一つとみており、「もっと早い段階で手術さえしていれば、こうはならなかった」と残念がる。視察で把握しきれなかった犬もいて、今後数が増える可能性もあるという。
■全頭の不妊・去勢手術へ
どうぶつ基金は現状を踏まえて11月9日から、出雲保健所に獣医師らのチームの派遣を決定。同10日から、無償で全頭の不妊と去勢の手術を実施する。
県薬事衛生課の中村祥人・食品衛生グループリーダー(47)は「ペットは原則、飼い主の所有物。許可をもらえないと保護もできないのが現状で、今回の支援や手術は非常にありがたい。県も職員を派遣するなど、できる限り支援したい」と話している。
同基金によると、犬の不妊・去勢手術には1匹あたり約3万円が必要。さらに健康を保つための駆虫薬やワクチンは2万円程度かかるという。手術後は、地元ボランティアなどの協力を得て、引き取り手探しを行うという。寄付は同基金ホームページ(https://www.doubutukikin.or.jp/)で受け付けている。