新型コロナウイルスのワクチン開発が佳境を迎える中、欧米や日本などの先進国がワクチンの先行確保を進めている。米製薬大手ファイザーなどが開発するワクチンは最終段階の臨床試験(治験)で高い有効性が確認された。先進国では早ければ年内にも接種が始まる可能性がある。しかし、発展途上国が後回しにされ、深刻な「南北格差」が生じる懸念も広がっている。
◇先進国が22億回分
「現在の予測に基づくと、世界全体に十分な量のワクチンは2024年まで行き渡らない」。米デューク大は10月末に公表した調査で、シビアな分析結果を明らかにした。原因は先進国と途上国の格差にある。
先進国は既に合計22億回分を確保済み。その大半を米、英、欧州連合(EU)、カナダ、日本の5カ国・地域が占めている。インドやブラジルなどの新興国も対応を急ぐが、途上国が独自で確保した例は確認できていない。
米国は複数の製薬大手に多額の資金を援助し、自国分の確保を優先する「ワープ・スピード作戦」を展開。英国も人口の5倍超分を早々に押さえた。英政府の責任者ケイト・ビンガム氏は「開発中のワクチンの多くに失敗の可能性があるため、多様な種類のワクチンを確保した」と力説した。実際、治験前のワクチンが成功する確率は約7%程度とされる。
◇国際協調も進展
一方で、発展途上国が取り残されることへの懸念から、国際協調の枠組みも進展している。国際組織「GAVIワクチンアライアンス」などが進める「COVAX」は、各国や国際機関などが資金を出し合い、途上国を含む各国の人口の2割に当たる分を共同購入する仕組みだ。
日本を含む約180カ国・地域が参加を表明。これまでに約20億ドル(約2100億円)の資金調達のめども立った。しかし、確保できたワクチンは十分ではなく、来年末までに少なくともさらに50億ドルの資金が必要となる。
GAVIのバークレー事務局長は「全ての地域で克服するまで、パンデミックは終わらない」と協力を呼び掛けている。ただ、米中の両大国に加え、自国産ワクチンの承認で世界に先駆けたロシアも参加を見送っている。
◇ワクチン国家主義に懸念
中国・武漢から数カ月のうちに世界中に広がった新型コロナは、国境を越える感染症のリスクを浮き彫りにした。ただ、国際協調の動きは鈍く、自国優先の「ワクチン国家主義(ナショナリズム)」の懸念は拭えていない。
英国に拠点を置く国際NGOオックスファムは、「世界人口の13%にすぎない先進国がワクチンの51%を独占している」と批判。独自に確保したワクチンの一部を近隣のバヌアツやフィジーに供給しようとするオーストラリアのような事例はあるが、非常にまれだ。
デューク大のエリナ・ウーリ・ホッジス氏は「一部の国は多国間の枠組みに参加しながら、独自にワクチンを確保して保険を掛けている。これが不平等を拡大している」と警鐘を鳴らしている。(ロンドン時事)