日本ペンクラブ桐野夏生会長が語る「排外主義への緊急声明」の真意と表現の自由

7月15日、作家や編集者、ジャーナリストらで構成される日本ペンクラブは、「選挙活動に名を借りたデマに満ちた外国人への攻撃は私たちの社会を壊します」との緊急声明を発出した。この声明は、排外主義的言論に対する強い警鐘であり、その背景には社会状況の深刻化がある。これまでも共謀罪反対やロシアのウクライナ侵攻に関する共同声明を発表してきた日本ペンクラブだが、今回は特に排外主義に焦点を当てた。本稿では、2021年に会長に就任し、現在3期目を務める小説家の桐野夏生氏に、SNS全盛の時代におけるペンクラブ活動の意義や、情報発信のリスク、そして今回の緊急声明発出の真意について詳しく聞いた。

日本ペンクラブの緊急声明発表記者会見の様子。左から中島京子常務理事、桐野夏生会長、山田健太副会長が並ぶ。日本ペンクラブの緊急声明発表記者会見の様子。左から中島京子常務理事、桐野夏生会長、山田健太副会長が並ぶ。

日本ペンクラブとは:その理念と活動

日本ペンクラブは、1921年にロンドンで創設された国際的な作家の団体である国際ペン(PEN International)の要請を受け、1935年に発足しました。初代会長は作家の島崎藤村が務め、約100名の作家が集結しました。「表現の自由に対するあらゆる形態の抑圧に反対する」という国際ペン憲章の理念の下、活動を継続しています。現在では、作家のみならず詩人、劇作家、ジャーナリスト、編集者、研究者など、幅広い分野の専門家が正会員として1166人、賛助会員として41社(2025年3月末現在)が所属し、言論・表現の自由を守るための重要な役割を担っています。

深刻化する排外主義的言論:緊急声明発出の背景

日本ペンクラブはこれまでも数々の声明を発出してきましたが、今回の緊急声明は、表現の自由という活動趣旨に必ずしも直接的に直結しないようにも思えるかもしれません。しかし、桐野会長は、その発出に至った経緯について次のように語ります。

「今回の声明は、入管法をめぐる問題などについて執筆活動を行っている作家の中島京子さん(日本ペンクラブ常務理事)の発案により、実現しました。先の参院選(7月3日公示、20日投票)において、与野党を問わず一部の政党が『違法外国人ゼロ』『日本人ファースト』『管理型外国人政策』といった、排外主義的で外国人を犯罪者や社会の邪魔者扱いするような主義主張を公然と掲げ、それが広く拡散されていく状況に強い危機感を覚えたのが理由です。」

これまでもヘイトスピーチの問題は存在していましたが、桐野会長は、政党が選挙運動に乗じて堂々とそのポリシーとしてヘイト的な主張を行うという、より深刻な状況になった点を看過できなかったと強調します。中島常務理事だけでなく、多くの理事たちが同様の危機感を抱いていたと言います。

「一方で、排外主義も一つの意見・考えであると言われればそうかもしれません。しかし、戦争のない平和な世の中や、外国人を含む皆が平等に扱われるという前提があってはじめて、表現の自由が担保されるのです。この観点から見れば、今回の声明発出は日本ペンクラブの活動趣旨に合致すると確信しています。」と桐野会長は、表現の自由と社会の平和・平等との深い関連性を改めて示しました。

政治活動との誤解を乗り越えて:声明発出の時宜とプロセス

参院選の期間中に声明を出すことで、日本ペンクラブが政治活動を行っていると誤解される危惧はなかったのでしょうか。

「もちろん、今のタイミングで出すべきかという議論はありました。しかし、状況があまりにも目に余るものだったため、ペンクラブとして声明を出した方がいいという結論に至ったのです。」と桐野会長は振り返ります。

このような声明の発出においては、時宜を得ていることが非常に重要です。まさにこのタイミングで出すことに大きな意義があったと言えます。また、オンライン会議が浸透した現代において、声明文の起草から理事会での討議、そしてその後の記者会見での声明発出までの一連のプロセスが、非常にスムーズに進めることができたことも、迅速な行動に繋がったと明かしました。

結論

日本ペンクラブが今回発出した緊急声明は、単に特定の政治的言動を批判するだけでなく、「表現の自由」という普遍的な理念が、いかに社会の平和と個人の尊厳、そして平等な共存の上に成り立っているかを示すものです。桐野夏生会長の言葉は、作家やジャーナリストといった言論に携わる人々が、時に政治的と見なされかねない問題に対しても、その本質的な価値を守るために声を上げることの重要性を私たちに教えてくれます。SNSが排外主義的な言論を拡散しやすい現代において、日本ペンクラブのような組織が果たす役割は、今後ますますその重みを増していくでしょう。

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