米国で年明けの1月5日に投票される二つの選挙が注目を集めている。ともに上院選の南部ジョージア州選挙区の決選投票だ。定数100の上院の多数派を決めることになる選挙の行方は、民主党のバイデン次期大統領(78)の政権運営に直結するため、民主、共和両党が総力を挙げて議席獲得を目指している。
【米大統領選・各州の勝敗】
「再び全米を驚かせよう。仕事をやり遂げるため、上院にこの2人が必要だ」。バイデン氏は15日、同州アトランタでのドライブイン形式の集会に足を運び、民主党の2候補への投票を呼びかけた。
各州に2議席ずつ割り振られた上院(任期6年)は2年ごとに3分の1が改選される。通常は州内2議席の選挙が同時に実施されることはないが、今回は任期満了に伴う改選と、引退した議員の残り任期の議席を争う選挙が重なった。
ジョージアは長年、党のシンボルカラーを赤とする共和党が牙城としてきた「赤い州」だったが、11月3日の大統領選でバイデン氏が共和党のトランプ大統領に約1万2000票の僅差で勝利した。民主党は参政権が抑圧されてきた黒人らの権利向上運動を展開。この2年間で80万人の新規有権者登録に成功し、支持層拡大につなげたことが勝因とされる。
同日実施された計2議席を争う上院選も大統領選との相乗効果により、民主党候補が善戦。決選投票に持ち込んだ。ジョージア州法は得票率で半数を超える者がいなかった場合は、上位2候補による決選投票で勝者を決めると定めている。
これまでに共和党は既に50議席、民主党は48議席を確保した。両党が50議席ずつの場合は、上院議長を兼務する副大統領が決裁票を投じる決まりのため、ハリス氏が副大統領に就く民主党はあと2議席伸ばせば上院を支配できる計算になる。
法案や予算案の審議に加え、大統領が指名した政府高官・大使・連邦裁判事の承認や条約批准などの権限を持つ上院。その主導権を握るか否かは政権運営に大きな影響を及ぼす。下院は既に民主党が過半数を確保しており、上院も押さえれば政権側は人事案や法案を自在に通すことができる。だが上院の多数派を共和党が占めた場合、バイデン氏が公約に掲げる野心的な気候変動対策や富裕層への増税などについて共和党が阻止に動く可能性もあり、バイデン氏は譲歩や妥協を迫られる。
既に14日に期日前投票も始まり、両党は総力戦を展開している。1月5日の投票日までに費やされる広告費の総額は4億ドル(約414億円)に達する見通しで、各陣営への献金の大半が「州外」からのものという。今月には15日に現地入りしたバイデン氏に先立ち、共和党も5日にトランプ氏が現地で演説した。
米メディアによる直前情勢調査では、両選挙でそれぞれ民主、共和両党の候補が互角の戦いを展開。バイデン氏勝利の勢いを維持したい民主党だが、大統領選に比べ投票率の低下が予想され、票の取りこぼしが懸念される。一方、「1議席でも取れば勝ち」の共和党は比較的優位だが、「大統領選で不正があり、ジョージアの決選でも繰り返される」とのトランプ氏の主張がかえって支持者の投票意欲をそぎ、逆効果になっているとの指摘も上がっている。【ワシントン高本耕太】