【モスクワ=小野田雄一】ロシアが2014年に一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島で水不足が深刻化している。もともと淡水が少ないクリミアにはウクライナ本土から水が供給されていたが、併合後は止められた。今年はこれに降雨不足も重なり、半島各地で1日計6時間しか水が供給されない事態となっている。給水制限は21年末まで続くとの観測もあり、住民はプーチン露政権への不満を強めている。
クリミアの中心都市シンフェロポリの水道当局は8月以降、貯水池の水量低下から生活用水の供給制限を開始。制限は段階的に強化され、今月は市内各地で水の供給が午前6時~9時と午後6時~9時の1日計6時間に制限されている。露経済紙コメルサントによると、同様の供給制限はクリミアの約30の都市や集落で実施されている。今月14日からは保養地ヤルタでも制限が始まった。
併合前のクリミアでは水の85%がウクライナ本土から「北クリミア運河」を通じて供給されていたが、併合でこれが止まった。昨年までは雨量が多く、大きな問題とはなってこなかったが、今年は降雨が少なく、各地で貯水池の水量が10%台まで低下した。
水の供給制限に住民は不満を強めている。多数の住民がインターネット上で「生活できない」「露政府は他の事業の予算をこちらに回すべきだ」などと表明。一方、ウクライナ側からは「自業自得だ」との反応も出ている。クリミアでは水のペットボトルの買い占めも起きているという。
プーチン政権は、ウクライナ本土から人為的に分断されたクリミア半島の実効支配を強化しようと、ロシア南部からクリミアへ橋を架けたり、海底送電ケーブルを敷設したりしてきた。そうした中で先送りされてきたのが水の問題だ。
クリミア当局は各地に海水を淡水化する装置を設ける方針だが、問題の解決にはかなりの時間と費用がかかりそうだ。クリミアでの住民の不満の高まりは、半島併合を「偉業」と主張してきた露政権にとって一定の痛手だといえる。