昨年11月、準備で来日したウクライナ人のイリーナさん(左端)と鳴子峡を訪れた佐々木清志さん(左から2人目)(佐々木清志さん提供)
宮城県大崎市の鳴子温泉郷で温泉施設の開業準備を進めている建設会社「サンユー」(宮城県石巻市)佐々木清志社長(60)が20日、同施設で最大800人のウクライナ避難民受け入れを政府などに志願していることを明かした。本来であれば今年1月にウクライナ人の10人雇用が内定していたが、コロナの影響で開業が遅れ、外国人の入国制限などもあった中でロシア軍がウクライナに侵攻した。ウクライナにいる内定者からは、現地の映像などとともに悲痛な声が届いている。
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佐々木さんは、一緒に働く予定のウクライナ人のためにも、開業作業の手を休めない。数日前には10人の1人でもあるイゴールさん(21)からSNSを通じて画像が送られてきた。自動小銃を手にした姿や、軍服の防弾チョッキにウクライナ語と漢字で「日本」と記されている写真が届いている。「涙が出た。頑張れというの励ましの言葉を送ることしか出来なかった…」。ウクライナでは総動員令が出され、18歳から60歳の男性は出国禁止で軍に召集される。軍に入る前の笑顔に、より胸が痛んだ
採用前にイゴールさんから送られてきた「日本に行きたいです。183センチ、79キロです」などの流ちょうな日本語動画も何度も見返している。「パンを焼くのがうまくてね。鳴子温泉に来たら仙台のボクシングジムに入ってプロボクサーになるのが夢と言っていた」。車で送迎する約束もしていたと言う。
佐々木さんは18年に閉鎖された鳴子温泉の温泉施設「農民の家」を買い取り、再建開業の準備を進めてきた。当初は昨年10月の開業を目指していたが、コロナの影響で海外からの資材が届かず断念。1月から雇用する予定だったウクライナ人10人も、外国人の入国を制限する水際対策の影響で現地で待機していた。全員の安否は確認しており、うち2人はすでに千葉県の知人を頼って入国。多くはキエフの国立大学日本語学科卒で日本語も英語も堪能だ。「学士号もとっていて、漢字も書ける。日本で言えば東大卒のような優秀な子たちばかりです」。接客業務などで外国人観光客も含めた対応をしてもらう予定だった。
残る8人のうち複数人からは、家族とともに来日したいという声もあり「すでに政府やウクライナ大使などに800人を受け入れたい意向は伝えています。しかし個人レベルでは限界もある」。ウクライナや数多く避難しているポーランドからの渡航費も約10万円かかるといい、政府の支援体制確立も求めている。最大収容1600人の同施設を再建し、多くの部屋にはキッチンを設置するなどの環境も整備。本来なら日本で共に働いていたはずの同僚のために、力を尽くす。【鎌田直秀】
○…昨年7月から12月まで宮城県を訪れ、一緒に開業準備を進めていたイリーナさん(32)は、息子との来日を希望している。今はキエフで、夜は寒さの厳しい地下シェルターで過ごしている。佐々木さんは「本来は正月休みの一時帰国だった。いまは、息子さんが旦那さんの両親と住んでいて離れ離れになっている。早く停戦して一緒に日本に来られるように願っています」。イリーナさんからは、現地の様子として動画や写真が数多く届く。「そのたびに心が痛みますし、心配も大きくなる」。
送られてくる動画の中には、ミサイルが撃ち込まれて街に炎が上がる映像などもあり、緊迫した戦場を痛感している。イリーナさんが来日していた昨年には日本の従業員らと鳴子峡などを一緒に観光し、伝統工芸品の鳴子こけしにも触れるなど、交流を深めていた。