■指先ひとつで言葉が「凶器」と化す

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2019年4月に発生した池袋母子死亡事故。松永拓也さん(35)の妻、真菜さん(31)と長女の莉子ちゃん(3)が死亡し、9人が重軽傷を負った。乗用車を運転していた飯塚幸三受刑者(90)は禁錮5年の判決を受け、収監された。
【写真を見る】「ソファに寝転がりながら投稿した」「どうせ誰も見ないと思って」加害者が語った“軽さ” 池袋母子死亡事故の遺族へ向けられた“デジタル暴力”
一見してひと区切りがついたかに見える事故。しかし、その裏で松永さんは“デジタル暴力”と呼ばれるSNSでの誹謗中傷に苦しんでいた。中傷をしたのはどんな人物なのか。加害者へのインタビューから指先ひとつで言葉が凶器と化す“デジタル暴力”の現実を追った。
■「天国の松永莉子ちゃんと松永真菜さんが喜ぶとでも??」 投稿した男性を書類送検
「駄々こねるな。事故で妻と娘を亡くしただけだろ。死ね、消えろ、ぶっ殺すぞ」
松永さんはネット上の数々の罵詈雑言に傷つけられてきた。そして、2022年3月11日、松永さん曰く「一線を越えた」という文言が彼のツイッターに直接投稿された。
「金や反響目当てで闘っている」「天国の松永莉子ちゃんと松永真菜さんが喜ぶとでも??」
松永さんは「真菜と莉子までも侮辱された」として警視庁に被害届を提出。4月28日に愛知県に住む男性のA氏(22)が侮辱の疑いで書類送検された。
■「どうすればいいのか分からない」A氏の父親の苦悩
A氏が書類送検される前夜、投稿した理由を聞くため、東京駅から新幹線に飛び乗った。名古屋駅で下車し、閑静な住宅街の一軒家に到着すると周囲は暗くなっていた。この日は母親に取材を断られたが、翌日再訪したところ、父親が取材に応じた。
「息子も昔は普通の子だったんです。ここ数年で2つの会社をクビになり、おかしくなった。ストレスが原因なのか、私たちもどうすればいいのか分からない」と助けを求めるかのように話した。
■「ソファに寝転がりながら投稿した」加害者が語った“軽さ”
夜の10時ごろ、大型バイクが自宅近くの駐車場に停まった。上下黒のバイク用スーツ姿のA氏が、ヘルメットを外しながら歩いてきた。細身で短髪、少し日焼けした肌。一見してスポーツマン風のこの人物が本当にあの激しい書き込みをしたのか。
A氏は一旦は取材に難色を示したが、約1時間にわたり中傷の真相を話した。
Q:本日書類送検されましたが?
A氏「されて当たり前なことだと僕は思ってます」
Q:普段から中傷の投稿を?
A氏「松永さん以外にも投稿していたが、どんな投稿をしたかは覚えていない」
Q:なぜ中傷の投稿を?
A氏「自分もSNS上で批判や誹謗中傷を受けたからいいかなと思った。憂さ晴らしの気持ちもあった。悪いことをしている感覚はなかった。どうせ誰も見ないだろうと思って」
A氏は、迷惑行為や攻撃的な書き込みから過去に複数のトラブルを起こしていて、乗っていた車は特徴のある改造車としてネット上では有名な人物だった。
これまでも何度か“炎上”し、誹謗中傷された経験もあった。
Q:どんな中傷を受けた?
A氏「車で通勤中にタバコの吸殻を(車内に)投げてきたドライバーがいて、そのドライバーを説教をする動画を上げたら、何か炎上しちゃって。”頭おかしいんじゃないの?”とか”死ね” ”殺すぞ”とかひたすらに罵られて、そこから車関係の人を嫌うようになった」
Q:松永さんを中傷した理由は?
A氏「松永さんが車の運転手に責任を負わせて金や反響目当てで戦っていると思った」
Q:池袋事故のことは詳しく知らなかった?
A氏「そうですね。別ニュースの記事と混同していた」
A氏は飯塚幸三受刑者のことを「飯塚”しょうぞう”」と何度も呼び間違え、事実関係を正確に把握していない印象を受けた。A氏は池袋の事故を大阪府で発生した別の母子死亡事故と混同したと釈明した。
Q:どういう状況で投稿したのか
A氏「(記憶を辿りながら)当日の昼ごろ、ソファに寝転がりながら、スマホで投稿した」
松永さんの心を深く傷つけたのは、約350キロ離れた場所に住む、面識のないA氏の何気ない日常の思いつきだった。被害の深刻さと加害者の“軽さ”のアンバランスさに衝撃を受けた。