【一面掲載コラム】
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きょうは子どもが泣いた話を。バスの中で幼い子が大声で泣き出した。あやしても泣きやまない。若い母親はいたたまれなくなって周囲を見回した。近くの席の中年男性と目が合った▼「すみません」。小声で謝ると、男性は「きょう、ちょっと嫌なことがあって…」。母親は「何を言われるのだろう」とびくびく。男性は「おじさんの分も泣いてくれる?」と笑いながら言ってくれた。母親がSNSに書いていた。「私まで泣きそうになりました」▼高校生の女の子もうるっとした。隣の町に1人で暮らす80代の祖母が入院した。ふとしたことで骨折し、動けなくなったのだ。両親と一緒に病院に駆け付けたが、新型コロナの感染対策で、入院患者との面会は許されなかった▼ある日、女の子は忙しい両親に代わり、祖母の着替えを持って病院を訪ねた。「おばあちゃんに一目でも」と頼んでみたが、規則は曲げられない。肩を落として帰ろうとしたその時-▼「ぐうぜーん、ぐうぜーん」と言う声が聞こえてきた。少し離れた場所を、祖母を乗せた車椅子がゆっくりと通り過ぎた。車椅子を押す看護師が笑顔で「偶然」と言いながら。かわいい孫娘の顔を見られた祖母の目から涙がこぼれた▼厳密にいえば規則違反だろうが、家族と会えない患者のつらさをよく知る看護師が、安全を確認して機転を利かせてくれたのだろう。その優しさに、こちらもうるっと。