島の高台に設置されている自衛隊のレーダー施設(左奥は陸上自衛隊与那国駐屯地)(4月27日、沖縄県与那国町で)=中司雅信撮影
沖縄本島の509キロ・メートル南西に浮かぶ日本最西端の与那国島(沖縄県与那国町)は、人口約1700人の国境離島だ。台湾から111キロ・メートルの島は今、中国の軍事的な台頭で緊張が高まっている。
4月28日、1通のメールが与那国島の漁業協同組合に届いた。題名は「台湾東における射撃訓練」。台湾軍の演習に伴い、特定海域にいる漁船に対して、水産庁が注意を呼びかける漁業安全情報だ。
「また台湾で射撃訓練か」
(写真:読売新聞)
漁協の嵩西(たけにし)茂則組合長(60)は、ため息をついた。「中台統一」を掲げる中国が台湾周辺で軍事的な威嚇を続ける中、「中国の脅威にさらされ、台湾の演習が増えた」と肌で感じ取る。2018年度に15件だったメールは昨年度、34件に増えた。台湾東側は、アカマチ(ハマダイ)などの好漁場で知られるが、演習が増えれば漁場は狭まる。
島の守りは、かつて「拳銃2丁」とやゆされた。島内に2か所ある警察の駐在所にちなんだものだ。長く防衛の空白地帯と指摘されてきたが、16年3月に陸上自衛隊の駐屯地が設置された。沿岸監視隊員約160人がレーダーなどで船舶や航空機を24時間監視する。
航空自衛隊も今年4月、駐屯地を拠点に与那国分遣班を新設。移動式警戒管制レーダーで領空侵犯の恐れがある外国軍機を探知し、那覇市の航空自衛隊那覇基地からの緊急発進(スクランブル)につなげる。昨年度のスクランブルは1004回で過去2番目の多さだった。中国機への対応は全体の7割を超える。
目視で中国機を確認したこともあるF15戦闘機パイロットの藤田俊介1尉(31)は「相手が何をするか分からないだけに、中国機を確認すると緊張感が高まる」と語る。
防衛省は、敵のレーダーや通信機器を無力化する電子戦部隊について、23年度にも与那国島への配備を計画している。「拳銃2丁」だった与那国は、いまや国境の守りの最前線だ。
与那国以外でも自衛隊の存在感は高まる。駐屯地は19年に宮古島に設置され、22年度中には石垣島でも開設される。太平洋戦争で県民の約4分の1が亡くなったとされる沖縄戦の記憶から「基地は攻撃対象になる」と反対運動もあるが、危機感を抱く住民の間では自衛隊誘致を求める声が広がる。