入国管理センターで起きている惨劇
「制圧」という名の集団暴行ではないか?(2019年1月19日)
今から45年以上も前のことだ。私は移民の一人としてブラジルに移住し、サンパウロで日系人向けの日本語新聞、パウリスタ新聞の記者をしていた。当時の治安は最悪で、警察と強盗との銃撃戦も珍しくはなかった。
警察に追い詰められ、逃げ場を失い、弾が尽きると彼らは降伏する。
その後は、警察官が犯人を取り囲み、周囲に通行人がいてもそんなことはまったく無視して、犯人グループを殴り、蹴り倒す。犯人の顔を軍靴で踏みつけ、腹部を容赦なく蹴り続ける。
その様子を目撃している通行人も警察官を制止しようとはしない。警察官は適当なところでリンチを止め、道に転がっている犯人をそのまま放置して引き上げていく。犯人を警察に連行しないのは、留置所も刑務所も凶悪犯であふれ、収容する余裕がないからだ。
サンパウロで目撃した警察官の暴行は衆人環視の中で行われた。トーマス・アッシュ監督の『牛久』というドキュメンタリー映画を観て、それ以上の惨劇が今の日本で起きていると思った。場所は茨城県牛久市にある東日本入国管理センターだ。
「制圧」という名の虐待や拷問
デニスさんは牛久入管職員から暴行を受けた後、「保護室」に入れられた(提供代理人弁護士、2019年1月19日)
この施設はオーバーステイや、就労可能な査証を所持していない外国人が日本で働き、退去強制令書を出され、強制送還までの期間、収容される施設だ。全国に17か所あり、出入国在留管理庁のホームページ(HP)には「保安上支障がない範囲内において、できる限りの自由が与えられ、その属する国の風俗習慣、生活様式を尊重されています」と述べられ、健康管理についても「医師及び看護師が常駐し、被収容者の診療に当たっており、必要に応じて外部の病院に通院、入院させる等被収容者の健康管理に万全の対策が講じられています。また、被収容者の心情安定を図るため、臨床心理士によるカウンセリングを実施しています」とも記載されている。
しかし、2021年3月、名古屋入管の施設に収容されていたスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリ(当時33)が「病死」した。彼女は17年に留学のために来日したが、その後「不法残留」となり入管施設に収容され、体調が悪化したにもかかわらず、必要な医療が受けられないまま死亡している。
実はこうした悲劇は氷山の一角でしかない。
2007年以降、昨年のウィシュマの死亡まで、入管の収容施設で16人が死亡している。病死7人、自殺5人、窒息死1人、餓死1人、調査中1人、ウィシュマは遺族が裁判を起こし、いずれ正確な死因は特定されるだろう。
東日本入国管理センターは完全な「密室」だが、ここに収容されている外国人の様子をトーマス・アッシュ監督は、隠し撮りという方法で白日の下にさらした。
それが『牛久』で、この映画は「世界最大級の日本映画の祭典 ドイツ2021”ニッポン・コネクション”」で「ニッポン・ドックス賞〔観客賞〕」を、アジアを代表する国際ドキュメンタリー映画祭「韓国2021”DMZDocs”」でも「アジアの視線」最優秀賞、オランダのカメラジャパンで「観客賞」を受賞し、日本各地、世界各国で上映され高い評価を得ている。
この映画には、面会室でアクリル板越しに収容者が施設内での生活を語る姿が映し出されている。まるで刑務所の面会室のようだ。一人ひとりの証言にも心打たれるが、私が衝撃を受けたのはデニス(43)の映像だ。入管は「制圧」行為と主張しているが、その様子は「制圧」などというなまやさしいものではなく、暴行を取り越して虐待、拷問のように私には思えた。