保守党の集会で演説する<左>トラス外相と<右>スナク前財務相=英イーストボーンで2022年8月5日、篠田航一撮影
ジョンソン英首相の辞任表明に伴う与党・保守党党首選の決選投票は、トラス外相が支持率でスナク前財務相を大幅にリードしたまま終盤を迎え、英メディアは早くも「新政権の閣僚」を予想し始めた。ただ、保守党自体の支持率は低迷しており、どちらが首相になっても今後は党の信頼回復が課題となる。
英調査会社ユーガブが党員約1000人を対象に実施した調査(8月12~17日)では、どちらを支持するかの問いに対し、「投票しない」「分からない」といった回答を除けばトラス氏が66%で、スナク氏の34%を大きく引き離した。決選投票は党員約16万人がオンラインまたは郵便で投票し、9月2日に締め切られ、同5日に結果が発表される。
こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズは8月25日、トラス氏に近い関係者らの話として、トラス氏が政権構想を練り始めたと伝えた。財務相にはトラス氏の長年の盟友で、2010年にともに下院議員に初当選した「同期」のクワーテング民間企業・エネルギー・産業戦略相が有力視されている。外相にはトラス氏の信頼が厚いクレバリー教育相の起用が予想されている。このほか、今回の党首選に立候補したベーデノック下院議員、トゥゲンハート下院外交委員長も重要閣僚に抜てきされる可能性が高いという。
ただ保守党自体の支持率は低迷し、最大野党・労働党にリードを許している。ユーガブが英市民約1700人を対象に実施した調査(8月16~17日)では「明日総選挙ならどの党に投票するか」の問いに対し、労働党43%、保守党28%で15ポイントもの大差がついた。新型コロナウイルス禍でパーティーに参加するなどしたジョンソン氏の一連の不祥事や、物価高騰などに対する有権者の不満が与党を直撃している格好だ。次の総選挙は24年までに予定されており、誰が首相になっても「短命」政権に終わる可能性もある。
英国政治に詳しい細谷雄一・慶応大教授(国際政治学)は日本記者クラブの25日のオンライン記者会見で、「現在の保守党は右傾化しており、(党員投票で決まる)党首選では候補者は右に寄らないと勝てない。しかし総選挙では中道に戻らないと勝てない」と指摘。広範な有権者の支持が必要な総選挙を見据えた場合、新党首は今後、難しいかじ取りを迫られるのは必至だ。一方で細谷氏は「労働党も党内が(左右に)分裂している」と述べ、政権奪還のためには労働党も分裂回避が課題と分析した。
9月に誕生する新首相は、英国の欧州連合(EU)離脱問題を巡り辞任したキャメロン元首相を含め、16年以降の6年半余りで4人目の首相となる。【ロンドン篠田航一】