ロシア兵の非道な行為について話すイリーナ(小野寺翔太朗氏撮影)
【プーチンの罪 ブチャ虐殺の証言】
イリーナ(57)は息子と2人で地下に隠れていた。周りの人たちはみんな避難して、近所に残っているのは2人だけだった。
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3月4日、朝食の途中で誰かが家の扉をノックした。2人は危険を感じて地下室に避難し、居留守を使った。
しかし、ロシア兵は地下の入り口を開け、「誰かいるか」と声をかけてきた。「母と自分だけだ」と息子は答えた。「男は下にいろ。女は上に来い」と命令されてイリーナは地下室を出た。
ロシア兵は30代の大柄な男だった。イリーナは戦前、念のためにフリブニャ(ウクライナの通貨)を1000米ドルに両替していたが、それをロシア兵が見つけた。「もういらないだろう。俺がもらう」と銃口を突きつけ、強奪した。
ロシア兵は扉の前に重いものを置いて息子を地下に閉じ込め、イリーナを隣の空き家に移動させた。「奥の部屋へ行け」と言われ、部屋に入ると、押し倒された。
「私は脱がないわ」と抵抗したが、ロシア兵は胸のボタンを取った。「私はあんたの母親の年齢よ。お前は親を犯すのか!!」と叫んだが、ロシア兵は無視してのしかかった。泣き叫ぶと殴られた。「お前はレイプした後に私を殺すのか」と尋ねると、ロシア兵は「お前次第だ」。
行為を終えたロシア兵はおびえるように走り去り、部屋に鍵をかけてイリーナを閉じ込めた。「開けろ、開けろ!」とイリーナがドアをたたいて叫ぶと、ロシア兵は戻ってきた。指なしグローブを忘れたからだった。
イリーナが服を着ているのを見たロシア兵は「なぜ服を着ている。何もするなと言っただろう」と問いただした。「もう犯したのに、これ以上何を望むというの」とイリーナが言うと、ロシア兵は銃を抜き、「早く出て行け。出て行かなければお前を撃つ」と大きな声で命じた。
イリーナはその場を立ち去ったが、息子には会いたくなかった。
「大丈夫だった?」。地下室に戻ると息子は優しく声をかけてくれた。
「大丈夫よ」
ロシア兵に犯されたなどと言えるはずもなかった。
「でも、あなたは地下にいてよかったわ。上に行っていたら殺されていたかもしれない」
イリーナはこう語る。
「今でも悪夢を見ることがあり、眠れないわ。なぜ顔を出して、インタビューを受けるのかって? ロシア軍がウクライナで行った非道、ブチャの真実を伝えるためよ」
■小野寺翔太朗(おのでら・しょうたろう) フォトジャーナリスト。1989年5月生まれ、33歳。ユーラシア大陸の民族問題や難民問題、戦争と紛争地の取材活動を行っている。以前はナゴルノ•カラバフ難民を取材。ウクライナではハルキウ(ハリコフ)、ブチャなどを約3カ月間取材した。