中国の大阪総領事・薛剣氏がX（旧Twitter）に投稿した「その汚い首を一瞬の躊躇もなく切り落とす」という脅迫的な発言が波紋を呼んでいます。この発言は、中国の「戦狼外交」がますます攻撃的になっている明確な証拠であり、日本だけでなく、カナダやオーストラリアなど世界各国が頻繁に直面している現象です。ICU教授のスティーブン・ナギ氏は、日本がこの非礼な外交に対して取るべき4つの対策があると指摘しています。本稿では、中国の戦狼外交の実態、日本への具体的な脅威、そして国際社会が直面する課題について深く掘り下げます。
１．エスカレートする中国「戦狼外交」の攻撃性
2017年頃から顕著になった中国の「戦狼外交」とは、中国の外交官による攻撃的で強硬な外交姿勢や手法を指します。その狙いは大きく分けて二つあります。一つは国内のナショナリズムを高揚させ、中国共産党への支持を集めるという側面。もう一つは、本国での出世競争の一環として行うという側面です。
高市早苗首相が、中国の台湾への攻撃が日本にとって「存立危機事態」になり得ると述べたことで、中国は激しい反発を示しました。高市首相にとっての課題は、北京の脅迫戦術にどう対応し、同時に彼らの巧妙な罠に陥らないようにするかという点にあります。
実は、この「罠」にはもう一つの危険な側面があります。元駐豪日本大使の山上信吾氏が「チャイナ・マジック」と呼ぶものです。これは一言で言えば「アメとムチ」の戦略であり、民主主義国家を不安定にし、分断するために計算し尽くされた巧妙な戦術なのです。山上氏は、日本とオーストラリアの両国がこの魔法の力に取り込まれ、中国側を不快にさせないよう努力することに執着しているようだと指摘しています。
２．日本への直接的脅威と「チャイナ・マジック」の影
薛剣氏が高市首相に暴力的な脅迫を行うわずか数ヶ月前、駐日中国大使の呉江浩氏は、日本の政治家たちに対し、もし日本が台湾独立を支持すれば「日本国民は火の中に連れ込まれる」と述べていました。これは、あろうことか、実質的に日本市民を傷つけると脅迫したに等しい発言です。
高市首相と中国の習近平国家主席が会談する様子。2025年10月31日、韓国・慶州での一幕
ところが、日本の外務省はこの脅迫に対し、「控えめな抗議の電話」で応じるに留まり、「大使を外務省に呼び出す」という伝統的な方法をとりませんでした。このような日本の外務省の弱腰な対応は、北京をさらに増長させ、ますます威嚇的にさせるだけだろうと専門家は危惧しています。この対応は、まさに中国が期待する「チャイナ・マジック」に日本が陥る兆候であるとも言えるでしょう。
３．国際社会が直面する中国の外交圧力の具体例
中国の戦狼外交は、日本だけを対象としているわけではありません。国際社会の多くの民主主義国家が、同様の圧力に直面しています。
カナダへの圧力：
カナダ当局が2018年にファーウェイ幹部の孟晩舟氏を逮捕した際、中国の駐カナダ大使・盧沙野氏は単に抗議しただけでなく、拘束された2人のカナダ人の釈放を要求したことについて、カナダを「西洋の利己主義と白人至上主義」だと非難しました。盧氏は論説で「カナダ市民だけが人道的に扱われ、彼らの自由は価値があるとみなされる一方、中国人はそれに値しない」と主張し、カナダが自国民を守ることを人種差別に転換しようとする印象操作を試みました。
オーストラリアへの圧力：
同様に、オーストラリアがCOVID-19の起源に関する調査を中国に求め、外国の干渉に関する法律を強化した際、北京は「14の不満」として知られる外交文書を流出させました。この「14の不満」の中には、オーストラリアによる「中国のウイグル、香港、台湾問題への絶え間ない干渉」の他、驚くべきことに「オーストラリアのメディアの敵対的な報道、外国投資制限、シンクタンクの批判的な報告書、中国の人権問題について発言するオーストラリアの国会議員」を黙らせる要求が含まれていました。つまり、中国は、民主主義国家に対して、報道機関と国民に選出された国会議員を沈黙させることを要求していたのです。
しかし、中国の李強首相が最近オーストラリアを訪問した際、山上氏が述べるように、訪問は「中国はオーストラリアに対する経済的威圧を完全に解除せず、オーストラリアの海軍と空軍に危険な行動を起こしているにもかかわらず、オーストラリアのご機嫌をとるような満面の笑みで会談した」と指摘されています。これは、脅しをかけている傍らで関係正常化を急ぐという、まさに北京が期待している「アメとムチ」戦略の一端が垣間見える事例です。
結論
中国の「戦狼外交」は、特定の国への脅迫に留まらず、民主主義国家全体を分断し、自国の意思に従わせようとする計算された外交戦略であると言えます。日本は、高市首相への脅迫や呉江浩大使の発言に見られるような直接的な圧力に対し、これまで以上に断固たる姿勢で臨む必要があります。国際社会の事例が示すように、「チャイナ・マジック」の罠に陥ることなく、自由で開かれた国際秩序を守るための、より強固な外交戦略と国際連携が今、日本に求められています。
