ロシアのウクライナ侵攻を受け、両国に住むユダヤ人のイスラエルへの移住が急増している。イスラエルにはユダヤ人であれば優先的に移住を認める「帰還法」があり、徴兵や戦火を避けるため応募が増えている。ロシアからイスラエルに移住したユダヤ人の男性が対面取材に応じ、思いを語った。(エルサレム 佐藤貴生)
イスラエル北部ネタニアで会った心理カウンセラーのセルゲイさん(28)=仮名=は5月、兄とともにロシアの首都モスクワから移住した。「動員される可能性は否定できず、核の使用が話題になるなどロシアにいることに不安があった」と振り返った。
帰還法に基づきイスラエルに移住するには、母もしくは祖父がユダヤ教徒で、犯罪歴がないことなどを証明する必要があり、「移住に賛成した父親が多数の証明書をそろえてくれた」(セルゲイさん)。移住後の1年間は年間2万ドル(約290万円)が支給され、医療費は無料だという。
セルゲイさんは「好きだったロシアはもう存在しない。友人もすべて失い、人生の時間を無駄にした。イスラエルで生まれていれば、もっとよい人生が送れたはずだ」と唇をかんだ。
一方、イスラエル西部テルアビブで会った30歳のユダヤ人男性は、「イスラエル・グロイスマン」という移住後に変更した姓名を名乗った。セルゲイさん同様、写真撮影は拒んだ。
ウクライナ中部キロボグラードで生まれ育ち、「大都市で暮らしたい」と考えて2012年にモスクワに移り、18年にイスラエルに来た。移住後はヘブライ語を学んで軍関連の工場で働いている。
ロシアとウクライナの双方を知る彼は、プーチン政権がウクライナ南部クリミア半島を併合した14年に移住を決意、準備を始めた。「この争いでどちらが勝っても、ユダヤ人にとって迫害される危険が増す」と感じたからだ。ウクライナで過ごした幼少期、「お前とは友達にはならない」と言われるなどの差別を受け、ロシアでもモスクワ以外の小さな町ではユダヤ人差別があるとみている。
「ウクライナとロシアでは、私は客人でしかなかった」。そう話すグロイスマンさんは「ロシアの侵攻はウクライナの反露感情を刺激し、民族主義が高まる恐れがある」と懸念する。ロシアで生まれ育った妻(27)も移住に同意し、ともにイスラエルで暮らしている。
ロシアとウクライナはユダヤ人が比較的多く住む国として知られ、イスラエルは一時期、両国の停戦仲介を試みた。17年時点でロシアには約18万人、ウクライナには5万人以上のユダヤ人がいたとされる。
イスラエルのメディアは今年9月、海外からの年間移住者が過去20年で最多となり、その75%近くは両国の出身者だと伝えた。