【解説】 ドイツはどのようにロシア産ガスから脱却したのか


【解説】 ドイツはどのようにロシア産ガスから脱却したのか

【解説】 ドイツはどのようにロシア産ガスから脱却したのか

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欧州へのガス栓を閉めた時、ドイツは他の誰よりも、停電続きの冬を恐れた。工業大国ドイツがいかにロシア産ガスに依存していて無防備か、いやというほど承知している政府幹部は、代替供給の確保に走り回った。

しかしそれから数カ月がたった今、ドイツ各地のクリスマス・マーケットにはイルミネーションがともった。グリューワインの香りがただよう空気の中には、慎重ながら楽観的な気配もある。ドイツ政府が急ぎ取りまとめたロシア産ガス脱却戦略は、今のところ、成功している。

オラフ・ショルツ首相は23日、「この冬のエネルギー安全保障は確保された」と議会に報告した。

ドイツ政府は世界中の市場で必死に、高いお金を払って、購買計画を進めた。おかげで、国内のガス貯蔵量が満タンになった。

そればかりではない。風の吹き荒れる北海沿岸、液化天然ガス(LNG)の輸入基地が史上最速で建設されたばかりだ。

LNGは、体積を減らし、輸送を容易にするために冷却され、液化された天然ガスを指す。目的地に到着した際に、再び気体に戻される。

ドイツ政府は、何事もなかなか進まない遅々とした官僚主義で有名だ。こうしたプロジェクトの実現は通常なら何年もかかるが、政府は役所仕事をとことん省略し、200日以下で基地を完成させた。

この基地で最も重要な浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)は、まだ係留されていない。LNGをガスに戻す機能の付いたこの船は、1日当たり20万ユーロ(約2900万円)で貸与されるという。

一方で、アメリカやノルウェー、アラブ首長国連邦(UAE)などから運ばれてくるLNGが、あと数週間でヴィルヘルムスハーフェンの港に到着する。LNG基地を運営するウニパーは、サプライヤーについては口をつぐんでいるが、契約は結んでいると主張している。

このほか5カ所にLNG基地の建設が計画されており、そのほとんどが来年に完成予定だという。

ドイツ産業界の命運はこれにかかっている。

ヴィルヘルムスハーフェンから車で30分のところでレンガ工場を経営するエルンスト・ブホヴさんは、「ガスがなくなったら炉を止めなくてはならない」と話した。

レンガは、巨大な炉の中で1200度の高温で焼き上げる。ブホヴさんは、いつかは環境にやさしい水素を使いたいと話すが、それには時間がかかるという。現時点では、安定したガス供給に全て依存している。

「これは政治家のせいだけではない。産業界がロシアとのガス契約を求めていた」と、ブホヴさんは言う。

ほんの1年前まで、ロシア産ガスはドイツのガス需要の60%を占め、そのほとんどがガスパイプライン「ノルド・ストリーム」経由で輸送されていた。

議会や国民からの大きな反対にも関わらず、当時のドイツ政府はなお、「ノルド・ストリーム2」の開設を検討していた。このパイプライン計画は、ロシアからドイツ経由で欧州に送られるガス量を2倍にするものだった。

連邦政府のエネルギー系当局によると、ドイツは現在、ロシア産ガスなしでもやっていけている。しかし専門家は、冬季のガス不足を避けるためには、LNG基地を年明けにも稼働させるほか、国内のガス使用量を20%削減する必要があると指摘する。

この状態に達しただけでも、国家的な偉業と言えるかもしれない。しかし、莫大なコストがかかっている。

ドイツは経済大国で、欲しいものは大抵手に入れられる。ドイツのLNG需要が急増したことで、世界的な需要も加速した。

その結果、バングラデシュやパキスタンといった貧しい国が、弱い立場に追い込まれたかもしれない。

独ヴィリー・ブラント公共政策大学院のアンドレアス・ゴルトタウ教授は、「LNG価格の高騰によって、新興国を中心に、実に多くの国が必要なLNGを調達できなくなっている」と話した。

こうした国々は「ヨーロッパ諸国、特にドイツに比べて購買力が低い」。そのため、停電が頻発する恐れがあり、石炭など(天然ガスより)「汚い」化石燃料への依存度を高める可能性があると、教授は警告した。

そして、環境により優しい未来を目指すドイツ自身の野望はどうだろうか。LNGは結局のところ、化石燃料だ。

ヴィルヘルムスハーフェンの計画に携わる人はみな、LNGは「暫定的な」燃料だと口をそろえる。

ウニパーは、LNGターミナルと共に、水素を使った施設も建設すると約束している。これが、ヴィルヘルムスハーフェンの市議会で野心的な計画に火をつけた。カールステン・ファイスト市長は、同市に必要な雇用をLNGターミナルがもたらすことはないが、グリーンエネルギー・ハブにはそれができると述べた。

「50年後、100年後の地球の気候が居住可能であるためには、エネルギー転換が必要だ。ドイツが必要とするその多くは、ここヴィルヘルムスハーフェンで、そしてヴィルヘルムスハーフェンを通じて実現する」

そのための最大のコストはおそらく、文字通り設備の費用そのものだ。

政府は6つのLNG基地に60億ユーロ以上を投じている。これは当初想定していた予算の2倍以上で、来年はさらに増加する可能性があると、閣僚らは自ら認めている。

ドイツは、安全なエネルギー供給の価値を知るのが遅すぎた。そのツケが回ってきたのだ。

(英語記事 How Germany ended reliance on Russian gas)

(c) BBC News



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