サッカーより虹が大切な国
11月に特派員としての業務を開始する際、私はワールドカップ(W杯)を目前に控えたドイツ社会の雰囲気を注意深くながめた。W杯で4回の優勝を誇るドイツは4年前、韓国に2対0で敗れ、ベスト16入りもならなかった。歯ぎしりしているのではないかと思った。
しかし、W杯の熱気はなかなか感じられなかった。W杯開始2週間前、カタールW杯大使を務めるハリド・サルマン氏がドイツの放送で同性愛のことを「精神的損傷」と述べたことで、雰囲気はさらに落ち込んだ。ドイツのツイッターでは、カタールW杯への参加を拒否するハッシュタグ(#BoycottQatar2022)が広がった。競技場ではカタールの移住労働者の死についてのろうそくデモが行われた。一部のパブは試合の中継をボイコットした。
ホーエンハイム大学のアンケートによると、ドイツ市民の半分がカタールW杯をボイコットする企業、政治家を支持している。3分の2以上が首相の試合観戦は不要だと考えている。ドイツ最大の性的マイノリティ(LGBTIQ+)人権団体(LSVD)は、同性愛を法律で禁止し、違反すれば懲役7年の刑すら言い渡されうるカタールに「旅行警報」を下すよう政府に要求した。当初ドイツなど7つの代表チームが着用することになっていた「虹の腕章」を禁止し、違反すればイエローカードを与えうると国際サッカー連盟(FIFA)までもが発表すると、冷え込んでいた熱気は怒りへと変わった。虹の腕章は人種、肌の色、性的アイデンティティ、文化、信念、国籍、ジェンダー、年齢などのあらゆる種類の差別に反対することを示すものだ。
「差別反対はドイツが非常に重視する価値だ。ドイツ代表チームのパフォーマンスには非常にがっかりしている。イエローカードを受けることを覚悟すべきだった」
ベルリンに住むダニエルさんは、11月23日の日本との初戦の話が出ると熱っぽく語った。日本に負けて怒っていたのではなく、代表チームが「卑怯だった」というのだ。試合前、ドイツ代表チームは虹の腕章を禁止したFIFAに対する抗議の意を示すため、手で口を塞ぐパフォーマンスを繰り広げた。競技場を訪れたドイツのナンシー・フェーザー内務相はこれ見よがしに虹の腕章をつけ、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長の隣に座った。しかしダニエルさんは「イランの選手たちが国歌を歌わずに沈黙したのを見るといい。いっそ他の7チームと連帯して試合をボイコットしていたら、FIFAもどうすることもできなかっただろう」と批判した。
ドイツが「差別反対」という価値をどれほど重く考えているかは政策にも表れる。ドイツは2006年に差別禁止法(一般平等法)を制定し、2017年には同性婚を合法化した。昨年発足した「信号機連立」政権は、ドイツ史上初めて「性的マイノリティ委員会」を作り、11月18日に「クィアリビング(クィアレーベン)」という国家行動計画を発表した。この計画にはジェンダー・アイデンティティを自ら決定できるようにする「自己決定法」、反暴力プログラムの導入などが含まれている。差別に反対する市民の力を基礎として、制度的装置が厚みを増しつつある。
「ドイツはなぜカタールW杯に冷笑的なのか」から出発した問いは、「韓国ではいつごろ実現するのか」という疑問へと広がった。2007年に盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が差別禁止法を最初に発議してから15年がたった。歴代の国会で敷居を越えられなかった法案は、第21代国会でも依然として係留中だ。共に民主党は11月15日に差別禁止法を優先処理法案としたという。4月の国家人権委員会の世論調査では、回答者の67.2%が差別禁止法導入の必要性に同意した。韓国市民もすでに準備はできているようだ。
ノ・ジウォン|ベルリン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )