G20サミットが採択した首脳宣言は、米中貿易摩擦の背景にある、海外とのモノやサービスの取引状況を示す「経常収支」の不均衡解消に向け、米国が重視するモノのやり取りを示す「貿易収支」だけでなく、ほかの要素も多国間で検討する必要性を訴えた。議長国・日本の主張を反映し、米国の「保護主義」を間接的ながら牽制(けんせい)した格好だ。
「(経常収支を評価する際は)経常収支の全ての構成要素に着目する必要性に留意する」。首脳宣言にはこう盛り込まれた。
トランプ米大統領は、米国の貿易赤字の解消を重視している。貿易赤字が膨らんでいるのは、たとえば中国が自国企業に補助金を与えるなどして輸出品を安くしているためだと主張。2国間交渉で、補助金をやめるよう求めたり追加関税を課したりして、摩擦を加熱させている。
一方、G20が打ち出したのは、貿易収支以外の経済要素にも注目すべきだとの考えだ。実際、米国の輸入が多いのは減税などの国内政策で米国民の消費意欲が強いからともいえる。そもそも米国が輸入品に高関税を課しても、低関税の他国からの輸入品が増え、根本的な問題解決とはならない。
また、日本の平成30年の経常黒字は19兆932億円だが、海外子会社から受け取る配当金収益などの黒字が10兆308億円を占める。外貨の多くを貿易でなく海外で稼いでおり、トランプ氏の通商政策批判はあたらない。日本は粘り強く理解を求める考えだ。
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経常収支 海外とのモノやサービスのやりとりを通じ受け取ったお金と支払ったお金の差額のこと。受け取ったお金が多ければ経常黒字、少なければ経常赤字になる。米国のように赤字が大きい国と、中国のように黒字が大きい国が存在する状態が「不均衡」。トランプ米政権は経常収支のうち貿易収支の赤字是正にこだわり、中国からの輸入品に関税を課すといった“貿易戦争”を激化させている。