国会での圧倒的多数を背景に長期の在任となった安倍晋三首相(自民党総裁)が、安定した政権運営を引き続き許されるかどうか。どの党の政策が現実的、建設的だとして受け入れられるか。
4日公示の参院選は、これらの審判を国民が下す選挙となる。令和初の国政選である。国の土台を築き直す論戦を期待したい。
主要7政党の党首らは3日、日本記者クラブ主催の討論会に臨んだ。驚いたのは、安全保障をめぐる危機感の欠如である。安全保障は日本の平和と国民の豊かな暮らしの前提ではないのか。
≪危機意識の欠如に驚く≫
安倍首相は一昨年10月の衆院選で、北朝鮮危機を国難に位置づけた。その後、米朝首脳会談が3度あったが、北朝鮮は核・ミサイル戦力を放棄していない。日本人拉致被害者も解放していない。
そのうえ、一層大きな国難が加わった。米中が「新冷戦」というべき長期の対立局面に入っている。経済と安全保障が切り離せない覇権争いである。中国は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を奪おうともしている。
党首討論会で、これら安全保障問題が質(ただ)されず、論じられなかったのは極めて残念だ。ホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃された問題は自衛隊派遣の可能性がわずかに論じられたが、エネルギー安全保障の議論はなかった。
トランプ米大統領は6月29日の記者会見で、日米安保条約は「不公平だ」と明言し、安倍首相に「変更する必要がある」と伝えたことを明らかにした。
安倍首相や立憲民主党の枝野幸男代表、公明党の山口那津男代表らは、米国が日本を防衛し、日本が基地を提供する安保条約は片務的ではないと強調した。
安倍首相は、安保関連法に基づく限定的な集団的自衛権の行使で日米は助け合う関係になると指摘した。安保関連法の意義は大きいが、トランプ大統領はそれが適用されない場合を語っている。
公明の山口氏は、強大な米国が攻撃されるケースを「想定して双務性を議論すべきではない」と語った。思考停止も甚だしい。
立民の枝野氏ら左派野党は、集団的自衛権の行使は違憲として安保関連法廃止の立場をとった。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対した。一方で、枝野氏は日米安保堅持を唱えたが、矛盾しているのではないか。
憲法改正は、参院選の大きな争点である。安倍首相は、改憲に前向きな勢力が参院でも3分の2以上の勢力を保つよう期待感を示した。日本維新の会の松井一郎代表は改憲論議に積極姿勢を示した。選挙戦では憲法への自衛隊明記をはじめ具体的な論議が必要だ。
ところが枝野氏は、安保法廃止まで国会の憲法審査会で9条に関する議論はできないと表明した。国会の責務を分かっていない。共産党との選挙協力優先の底意が透けてみえるようだ。
≪冷静な年金論議必要だ≫
経済環境の変化に対し、成長を実感できる経済をいかに再構築するのかは重要な論点だ。米中摩擦に伴う経済の下ぶれ懸念に加え、10月には消費税率10%への引き上げも控えている。野党から家計所得を重視する主張が相次いだ。企業心理が冷え込む中で所得の底上げをどう図るか。実現可能な方策を競い合うべきである。
消費税10%について野党は凍結や中止を訴えたが、社会保障制度の安定性や、その基盤となる財政は大丈夫なのか。立民は法人税や金融所得課税の見直しを唱えたが、社会保障などの恒久財源となり得るのか説明が必要だ。
安倍首相は税率10%の実現後について「今後10年くらいは上げる必要はない」と語ったが、長期的な税制の姿を説く責任がある。10月の消費税対策の有効性も論じられなくてはならない。
老後の蓄えが2千万円必要だとする報告書が論議を呼んでいるが、不安をあおり、厳しい現実から目をそらすときではない。負担と給付のバランスを踏まえた冷静な年金論議が望ましい。
少子高齢化や人口減少は依然国難であるのに、新たな経済、社会のグランドデザインが見えない。有権者は、将来を見通せる、実のある論戦を待っている。
九州地方では記録的大雨となっている。参院選のさなかであっても政府は、災害対応に万全を期してほしい。