志尊淳(C)日刊ゲンダイ
日本の植物学の草分け・牧野富太郎をモデルにしたNHK連続テレビ小説「らんまん」は、今月から若者3人の恋模様に突入した。主人公・槙野万太郎(神木隆之介)は家業の造り酒屋「峰屋」をほったらかしにして、今度は東京で見かけた和菓子店の娘・西村寿恵子(浜辺美波)にぞっこん。万太郎の姉(実はいとこ)の綾(佐久間由衣)は失恋、そしてその綾にあこがれていた奉公人の竹雄(志尊淳)がついに告白! 「好きじゃ、綾さまのことが」と、“身分違い”を承知で募る思いを必死に伝えた。
NHK「らんまん」万太郎のお目付け役・志尊淳の告白と決断に《最高でした》と視聴者感動
そんな竹雄のファンが急増中だ。大奥さまタキ(松坂慶子)から万太郎の世話を言いつかり、幼いころは身代わりになって木刀で打ち付けられたり、青年になってからも不甲斐ない万太郎のために粉骨砕身、滅私奉公。志尊のイケメンぶりもあって「ああ、健気! あの強さと優しさがたまらん」と女性視聴者を身もだえさせているのだ。日刊ゲンダイの女性向けサイト「コクハク」の連載「朝ドラのツボ!」で桧山珠美さんも「キュン度が増します」と推す。
ドラマの展開として、もっとうまい酒を造りたい綾が「峰屋」を継いで、竹雄と一緒になるのだろうが、実は竹雄にもモデルがいる。ドラマの舞台「峰屋」は実際は「岸屋」といい、土佐・佐川村でも一、二の酒蔵だった。そこの番頭の竹蔵(ドラマでは市蔵)の息子に和之助がいた。これが竹雄である。綾も本名は猶といった。
しかし、岸屋は牧野の東京での植物研究を支えるために大金を送り続け、ついに経営が行き詰まってしまう。後を引き受けたのが和之助だ。地元史には井上和之助酒店として登場するが、それもほどなく人手に渡る。その後、佐川村の酒蔵の統合などを経て、現在の司牡丹酒造につながる。そう、のど越しの良さで人気の清酒「司牡丹」の製造元である。本社と工場はいまも高知・佐川町にあって、そこの作業場や酒蔵を参考に「らんまん」のセットも組まれた。ドラマの銘酒「峰乃月」は司牡丹ということかな。
酒造りをやめた和之助と猶はしばらく醤油店を営んでいたが、ほどなくして静岡・焼津に転居。ブリ漁の網元として成功したという。
「らんまん」はこれから万太郎の東京での研究者生活が始まるが、ここでも同行している竹雄の苦労は絶えない。膨大な植物標本を積んだ大八車を引いて下宿先を探し、研究のためと言ってはカネを湯水のように使う万太郎の生活費の足しにと、西洋料理店で給仕としても働き始める。
ところが、万太郎はのんきなもので、東京大学の研究室に向かう途中で寿恵子の店に寄ってはデレデレ。「牡丹の花が好き」と聞くと、ひたすら牡丹の植物画を描き続けるというありさまだ。あげくに、寿恵子が経済界の実力者に見初められたと聞いて体調を崩す。竹雄の心労絶えず。ひたすら「ちゃんと寝て、食べて、笑顔でいてくれること」を願うのだった。万太郎、竹雄の苦労を少しはわかってるか!
(コラムニスト・海原かみな)