昨年1月、藤井聡太現7冠と対局した船江恒平六段
将棋のABEMAトーナメント2023予選Cリーグ第2試合、「チーム(佐藤)天彦」対「チーム菅井(竜也)」における2局目、佐藤天彦九段と船江恒平六段の対戦が、プロ棋士には珍しい「王手放置」という反則で決着した。
【写真】船江恒平六段に勝利後、大盤解説会に登場し、公開で感想戦を行う藤井聡太竜王(左)
持ち時間が双方10秒を切り、盤上が、さながらボクシングの殴り合いの様相となる中、佐藤九段の3五角の王手に対し、船江六段は王の対応をせず、3八飛の王手で返してしまい、「王手放置」で船江六段が反則負けとなった。王手をかけられたら、王を逃がすなど必ず王手を防ぐ手を差さなければならず、王手をかけられた中で王に関係のない手を差すのは反則負けとなる。
船江六段が3八飛を打った瞬間、解説の横山泰明七段も「え?え?え?え?」と軽いパニック状態。佐藤九段に王を指差された船江六段もすぐに気付き「あっ、あー」と天を仰いだ。チームを率いる菅井八段はモニター観戦の控室で思わず「ちょ、ちょ、ちょ。もーっ、勘弁してよ。こんなんダメ!こんなんないわ、何してんの?もー、ちょっと」と、椅子から思わず立ち上がって表情をしかめた。
136手までで勝利を収めた佐藤九段は「こちらに“うっかり”も出て…。内容はとても褒められたものではなかったが“勝ったことは勝った”というのはある。その1勝というのは大きい」と船江六段に気を遣ったコメント。反則負けを喫した船江六段は「いや、もうちょっと、はい…」とバツが悪そう。「人生で初めて“王様”を取られたような気がします。いや、王様取られたっていうか…本当に申し訳ない将棋でした。すみません」と平身低頭。そして「チャンスが来て喜びすぎた。チャンスを逃したことを嘆いていたら、自分の王手(が掛けられた状態)を忘れてました。いやー、すみません」と苦笑いで頭を下げた。
船江六段は36歳、佐藤九段は35歳で2人はいわゆる同学年。佐藤九段は対局前、「(彼とは)奨励会(プロ棋士養成機関)の時に一緒だった。感慨深いし、懐かしい思いもある。そういう相手とこういう舞台で久々に対局できる。楽しみ」と語り、船江六段も「(彼は)非常に粘り強い棋風。粘り強さに負けないように指したい。ここは絶対に勝ちたい」と話していた。同学年の、さまざまな思いがこもった一戦だったが、意外過ぎる結末だった。