行方不明の潜水艇、どんな人が乗っているのか 酸素の残り30時間に
大西洋で沈没した豪華客船「タイタニック」の残骸を海底で見学する潜水艇が行方不明になり、捜索が続く中、船内で生命を維持できるとされる時間が20日、残り約30時間となった。どんな人たちが乗っているのか。
アメリカとカナダの当局は、現地時間20日夜(日本時間21日午前)も、米マサチューセッツ州ボストンを拠点に、大規模な捜索活動を続けている。対象の海域はコネチカット州よりも広いとされる。
米沿岸警備隊は、小型潜水艇「タイタン」に備えられている酸素は、残りが約30時間分だとしている。
タイタンには、次の5人が乗っていることが分かっている。
■ヘイミッシュ・ハーディングさん
58歳のイギリス人冒険家。ドバイを拠点とするプライベートジェット販売代理店「アクション・アビエーション」を経営し、いくつかの探検で偉業を成し遂げた。
南極を何度も訪れ、昨年は米宇宙開発企業「ブルー・オリジン」の有人飛行で宇宙へ飛び立った。マリアナ海溝最深部の潜水時間の最長記録など、ギネス世界記録を3件保持している。
昨夏の雑誌記事によると、香港で育ち、英ケンブリッジ大学在学中の1980年代半ばにパイロットの資格を取得した。銀行業務のソフトウェアで財を成した後、航空機会社を立ち上げた。
タイタニック見学の潜水は昨年6月に予定していたが、潜水艇の損傷で延期されたという。
探検を望む気持ちについて問われると、「すべてが計算されたリスクであり、それは出発前によく理解されているというのが私の考えだ」と話していた。
先週末、フェイスブックに、「ニューファンドランドでは過去40年で最悪の冬となっている。今回のミッションはタイタニックへと向かう2023年最初で最後の有人ミッションとなりそうだ」と投稿。その後、「天候が一時的によくなったので、明日潜航を試みる」と書いていた。
米航空宇宙局(NASA)の元宇宙飛行士テリー・ヴァーツさんは、ハーディングさんについて、「探検家であり、スリルを求める人ではない」、「緊急事態に対処できる」とBBCの番組で話した。
■シャザダ・ダウッド、スレマン・ダウッド親子
イギリス人実業家シャザダ・ダウッドさん(48)は、パキスタン屈指の富豪一家の出身。息子で学生のスレマンさん(19)と一緒に潜水艇に乗っているとみられる。
シャザダさんは、妻クリスティンさんともう1人の子どもアリナさんと、ロンドン南西部サービトンに住んでいる。一家は今回の潜水までの1カ月、カナダで過ごしていた。
パキスタンの大手肥料会社「エングロ・コーポレーション」の副会長。家族で設立した「ダウッド・ファウンデーション」の仕事もし、地球外生命体の探索を行う米カリフォルニアの研究機関「SETIインスティチュート」にも関わっている。
家族は声明で、シャザダさんは「さまざまな自然の生息地を探索する」ことに興味があり、国連や英オックスフォード大学の関係団体で講演したことがあるとした。
米フィラデルフィアと、英バッキンガム大学で学び、1998年に同大学を卒業したという。
家族の声明によると、スレマンさんは「SF文学の大ファンで、新たなことを学んでいる」ところだという。ルービックキューブやバレーボールに興味があるという。
■ポール=アンリ・ナージョレさん
77歳の元フランス海軍の潜水士。「ミスター・タイタニック」のニックネームで知られ、どの探検家よりも長い時間、タイタニック沈没現場で過ごしてきたとされる。
タイタニックが発見された2年後の1987年には、沈没現場を最初に訪れた探検隊に加わった。
現在はタイタニックの残骸の権利保有会社で、水中調査のディレクターを務めている。
潜水艇に乗り込む直前には、タイタニックから物を回収する来年の探検が楽しみだと話していた。
■ストックトン・ラッシュさん
タイタニックの見学ツアーを運営する「オーシャンゲート」の最高経営責任者で、61歳。乗船していることを同社が認めた。
経験豊富なエンジニアで、実験用航空機の設計や小型潜水艇の仕事に携わったこともある。
2009年にオーシャンゲートを設立。2021年にタイタニックの沈没現場へのツアー旅行を開始し、世界的に注目された。料金は25万ドル(約3500万円)。
参加者は、タイタニックが沈んでいる海域まで約600キロメートル、大型船で移動。その後、トラックほどの大きさの潜水艇「タイタン」で、往復8時間のダイビングをする。
昨年の米紙ニューヨーク・タイムズの取材では、自らのビジネスモデルの妥当性を主張。料金については、「宇宙飛行と比べるとわずかだし、あそこに船で到達するにはとても費用がかかる」と話していた。
2017年に書かれた、母校の米プリンストン大学のウェブサイト特集記事によると、オーシャンゲートの潜水には毎回参加しているという。
(英語記事 British father, his son and explorer among missing/Live Reporting)
(c) BBC News