「ビッグモーターと検察組織の問題点は同じ」郷原弁護士が指摘する「閉鎖性」と「権力集中」

ビッグモーター問題について語る郷原弁護士

保険金の不正請求から始まった中古車大手「ビッグモーター(BM)」のトラブルは、止まることを知らないようだ。売上至上主義による突っ走りが、多くの社員に不正行為を引き起こす結果となってしまった。

ビッグモーター問題について、元特捜検事でコンプライアンス専門家の郷原信郎弁護士は、「結果だけを求める手段を選ぶ姿勢は、カルト宗教の統一教会や特捜検察と同じだ」と指摘している。

非上場で閉鎖的な状況のため、権限が一箇所に集中していたと郷原弁護士は厳しく批判する。その結果、組織内のメンバーは考えることをやめ、「無脳化」していくという。

一方で、刑事事件としての立件は避けるべきだとも郷原弁護士は主張する。「トップの罪を立証することはできない。社員が血を流し、新たな問題が起こるだけだ」と彼は断言している。

「利益追求が暴走し、真っ黒に」

2007年に出版された「『法令遵守』が日本を滅ぼす」という本で、郷原氏はコンプライアンスに警鐘を鳴らした。当時、法令遵守が重要視されていたが、ただ法律やルールに反しなければ問題ないという姿勢は危険だと彼は指摘した。現在までに20刷を重ねているこの本は、不祥事が起きるたびに引き合いに出されることがある。

ビッグモーターの新社長である和泉伸二氏も、「常にコンプライアンスを意識し守っていく」と述べている。

「統一教会もコンプライアンスを宣言していました。私が考えるコンプライアンスは、社会の要請に応えることです。本来なら、時代によって変わる社会の要請にバランス良く応えていかなければなりませんが、ビッグモーターは利益追求に偏ってしまった」と郷原弁護士は語る。

「まともな組織なら抑制が効くはずですが、創業者系の副社長が権限を持ったことで歯止めがなくなり、走り始めたら止まらない状態になった。もともと真っ白ではない業界で、彼らは暴走し真っ黒になったのです」

「コンサルの助言を曲解」

ビッグモーターが参考にしたとされる経営コンサルタント「武蔵野」の問題についても、郷原弁護士は言及している。知床遊覧船沈没事故で26人の死者・不明者が出た運営会社も、武蔵野の経営指導を受けていたという。

「徹底的なコストカットといっても、安全を犠牲にするような指示は直接されていないはずです。利益追求だけを目指す単純な考えに染まってしまえば、考えることは必要ありません。第2次安倍政権以降、法令遵守による『開き直り』が一般化し、都合が悪くなると法律の解釈を変更したりして、『法令遵守と多数決の論理』が社会全体に広まった影響もあるのではないでしょうか」

一度間違った方向に進んだ組織が引き返すには、どうすればいいのだろうか。

「ビッグモーターは徹底的に解体するか、新しい組織として再出発するしかありません。世間のバッシングに流されず、警察や検察が無茶をし始めると最悪です。社員たちが器物損壊で立件されるなど、どこにでも血が流れることになります」

「特捜検察にも同じ傾向がある」

さらに、特捜部の検事としての経験から「ビッグモーターなどに見られる病理は、検察庁内部でも同じだ」と郷原弁護士は言う。

「閉鎖的で上層部が強い。かつての特捜部は、上層部が描いたストーリー通りに『自白』という名のもとに調書に署名させた。脅迫や欺瞞、ありとあらゆる手を使いました。相手を屈服させるため、末端の検事のほとんどは無思考の状態でした。現在の特捜部にも、その傾向は根強く残っているように感じます。

個人的な意見を貫ける人は一部いますが、出世のために従ってしまう人がほとんどです。上層部に逆らえば人事評価で明確な差別を受け、苦しい思いをすることになるでしょう」

現在、郷原弁護士が担当している東京五輪の談合事件では、イベント会社の専務の保釈が第6回まで延期され、勾留は200日近く続いた。

「最近では人質司法が悪化しています。刑訴法上の権限を悪用した監禁に近い状態と言えるでしょう。内部情報に詳しい私のような人間が、外から戦いを挑まなければ変わらない。検察側に否定できない事実を次々と提示するしかありません」