最低賃金が国の「目安」を大幅に上回り、人口流出が懸念される

背景となる物価上昇と地域の賃金差

最低賃金を決める地方審議会において、国の示した「目安額」を上回るケースが相次いでいます。東日本の山形県では7円、青森県では6円、秋田県では5円の上乗せが行われ、地域ごとの目安額を上回る結果となりました。この背景には物価の上昇とともに、地域ごとの賃金差が人口流出を招くおそれがあるとの危機感があります。折衝関係者によると、国の目安を「無視した」と語る者もおり、制度にも大きな影響を与えました。

地域の意識の変化が働きかけとなる

「全国的に最低賃金が低い県が、上乗せする意識を持って行動している」と、山形地方最低賃金審議会の村山永会長は述べています。山形県は全国トップの7円を上乗せし、現行の時給854円から46円引き上げ、初めて900円の大台に乗ることとなりました。人口減少が進む中、労働者の確保競争は激しさを増しています。最低賃金はその重要な試金石であり、地域差は移住の要因ともなるため、「上げ圧力」が各地で高まっているのです。関係者によれば、「労働力が都市部に流出しないようにしたかった。国の目安は無視した」とのことです。

山形市内のコンビニでアルバイトをしている男子大学生は、「最低賃金が上がるのは嬉しいが、若い人たちが県内にとどまり、県外流出を防ぐためには、まだまだ上がってほしい」と話しています。

若者の定着にも影響を及ぼす

秋田地方最低賃金審議会は5円の上乗せを行い、時給853円から44円引き上げて897円に改定しました。これは昨年の31円の改定幅を大幅に上回っています。事前の議論では労使双方の主張がまとまらず、賃金の地域間格差解消を考慮した公益委員の意見を採用しました。労働者と公益委員の賛成多数により可決されました。

秋田県内の企業の99%が中小零細企業であり、新型コロナウイルス感染症や国際情勢の影響を受けて経営状況は困難です。昨年から2年間で最低時給が計75円引き上げられれば、経営に圧力がかかるとの声が強くあります。ただし、「秋田は給料が安い」という先入観から、首都圏や仙台圏などへの若年労働者の流出が起きており、最低賃金の大幅な改善が企業にとっても若年労働者の確保を容易にする結果となるでしょう。

佐竹敬久知事も「全国との賃金格差が人口流出や産業の活性化、Uターンなどに影響している。県民の生活レベルを上げることは人口問題解決にも直結する。県内への若者の定着、Uターンにも大きな影響がある」と述べ、大幅な引き上げの必要性を指摘しています。

中小企業への打撃も懸念される

一方、岩手県では目安通りに早々に決定され、39円の改定額893円は、徳島県や沖縄県を3円下回り、単独で全国最低となりました。労働団体などが異議を申し出ましたが、最終的に最初の答申が維持されることとなりました。

連合の幹部は、「中小企業の支払い能力に限界が来ている」との声を重視した議論となったと述べています。人口流出は既に目に見えており、さらなる悪影響を及ぼすのではないかと心配しています。

専修大学の山県宏寿准教授(社会政策)は、「政府は地方創生を掲げ、地方における労働環境の必要性を訴えてきましたが、目安額は格差を助長し、一貫性が欠けています」と各県での上乗せを前向きに評価しています。一方で、大幅な賃上げは中小企業に打撃を与える可能性もありますので、山県准教授は「政府は大企業と中小企業の富の再分配について見直しを行う必要があります。大企業の多い東京に勤めなくても、きちんとした給与を得られる社会を実現するべきです」と指摘しています。

改定後の最低賃金は、10月以降に順次適用される予定です。