北朝鮮内部:住民たちが不安募らせる金正恩政権の「賃上げ」の真相とは?

2023年11月から12月にかけて、北朝鮮政府は労働者や公務員の労賃を年初に比べて10倍以上に引き上げました。政府は「配給外の生活費に充てよ」と説明していますが、住民たちは逆に不安を募らせているそうです。金正恩政権の労賃アップの狙いは一体何でしょうか?

「大幅賃上げ」に不安増す庶民たち

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金正恩政権の「大幅賃上げ」策は経済立て直しに奏功するだろうか。写真は幹部たちと降雪の中で工事現場を視察した金正恩氏。2018年11月労働新聞より引用。

2020年にコロナパンデミックが発生して以降、北朝鮮の都市住民の暮らしは大きく悪化しました。国境封鎖に加え、個人の経済活動を強く制限する政府の措置により現金収入が激減しました。このため、母子家庭や老人世帯などの脆弱層では栄養失調や病気で死亡する人が後を絶ちません。

そこで労賃の大幅引き上げは良いニュースになるはずですが、住民たちの反応は芳しくありません。取材協力者によれば、金正恩政権は「職場に出勤しないと食糧を買えない仕組みにしようとしている。庶民はだんだん国家の奴隷のようになりつつあります」としています。

今回の「賃上げ」の特徴は、金正恩政権がこの3年余り強力に進めてきた「食糧専売制」と紐づけていることにあります。具体的な仕組みについて、アジアプレスは咸鏡北道、両江道、平安北道に住む取材協力者と調査を進めてきました。

市場での食糧販売を禁止し国家専売制へ

1990年代後半から北朝鮮の食糧流通の中心は市場でした。しかし、パンデミック発生後、政府は市場での食糧売買に介入し始め、国営の「糧穀販売所」を復活させました。この販売所では市場価格よりも10~20%安くコメとトウモロコシを販売しています。

同時に政権は、職場への出勤を強制しました。無断欠勤や私的な賃労働をする者は処罰の対象となりましたが、出勤する労働者には食糧配給が行われました。結果として、労働者は月に3~10日分程度の食糧を受け取ることになりました。ただし、教員や公務員、警察官、秘密警察要員には家族分まで70~100%の支給が続いています。

市場では食糧の販売統制が厳しくなり、ついに2023年1月には市場での販売が原則禁止となりました。「糧穀販売所」での販売に一本化されました。現在では、1世帯あたりの販売量は毎月2回に分けて5~10日分となっています。

これらの食糧を全量購入する場合、1か月で約5万ウォンが必要です。以前は出勤する労働者の妻が商売をすることで、数十万から数百万ウォンを稼いでいましたが、統制のためそれは不可能になりました。

※1000ウォンは約17円。

このような背景から、住民たちは金正恩政権の「大幅賃上げ」策に懸念を抱いているのです。

ソース:Yahoo!ニュース

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