無国籍の民、クルド人へのヘイトスピーチ問題:日本の闇に迫る

「国を持たない最大の民族」クルド人とは

中東地域にルーツを持ち、「国を持たない最大の民族」と呼ばれるクルド人。トルコ、シリアなど、複数の国にまたがって暮らしていますが、差別や弾圧の歴史は長く、苦難の道を歩んできました。

日本では、約30年前からトルコ国籍のクルド人が埼玉県南部に定住し始めました。現在では、川口市や蕨市を中心に約2000人が暮らしているとされています。

これまで、アパートでの生活音やゴミ出しなどを巡り、クルド人と日本人住民との間でトラブルが発生することもありました。しかし、地域住民による支援団体が設立され、クルド人自身も日本社会への融和を積極的に進めてきました。近年では、有志による夜間パトロールやゴミ拾い活動なども定期的に行われています。

深刻化するヘイトスピーチ:その背景にあるもの

しかし、昨年春頃から、これまで以上に目立つようになったのが、ヘイトスピーチの存在です。

きっかけとなったのは、昨年7月に川口市内で発生した、クルド人同士の争い事でした。搬送先の病院付近に仲間約100人が集まった騒ぎが、ヘイト感情を増幅させたとみられています。

その後、埼玉県内ではヘイトデモが行われたほか、SNS上でもクルド人に対する誹謗中傷が頻繁に見られるようになりました。

弁護士会館で緊急集会:映画上映とパネルディスカッション

こうした状況を受け、8月26日、日本弁護士連合会(日弁連)主催による緊急集会が、東京・千代田区の弁護士会館で開催されました。

集会は2部構成で行われ、第1部では、仮放免状態で月に1回東京入管に通いながら解体業で働く18歳のクルド人男性の日常を追ったドキュメンタリー映画『東京クルド』が上映されました。

日向史有監督は、「クルド人の若者たちが口にするのは、『日本にいても将来が見えない』『自分は価値がない』といった言葉です。日本の何が彼らにそう思わせるのかを知りたくて、映画を撮り始めました」と語りました。

続く第2部のパネルディスカッションには、日本クルド文化協会代表理事のチカン・ワッカス氏、支援団体「在日クルド人と共に」代表理事の温井立央氏、ジャーナリストの安田浩一氏、クルド難民弁護団の大橋毅氏の4名が登壇しました。

SNS上で拡散される、クルド人による迷惑行為や犯罪を伝える情報について、チカン氏は「喧嘩などの事件は多少ありますが、ほとんどはデマです。『クルドカー』の写真が投稿されていますが、運転者の顔は一切写っていません。誰が運転しているのかわからないにもかかわらず、後ろから過積載の車を撮影し、『クルドカー』と投稿しているのです」と批判しました。

ヘイトスピーチから見えるもの:私たちにできること

日本で暮らすクルド人に対するヘイトスピーチは、根拠のない偏見や差別意識に基づくものであり、決して許されるべきではありません。

多様な文化や価値観を認め合い、共に生きる社会を実現するために、私たち一人ひとりがこの問題について真剣に考える必要があるのではないでしょうか。