2024年1月にNISA制度が改正されて以降、その口座開設数は著しい伸びを見せています。2023年12月末時点の口座数が2,125万口座であったのに対し、2024年12月末には2,559万口座に達し、わずか1年間で20.42%もの増加を記録しました。直近のデータでは、2025年3月末時点で2,647万口座となっており、このペースで推移すれば2025年12月末には2,911万口座に達すると予測されます。前年比での増加率は13.75%と、2024年中に比べてペースダウンの兆しが見えますが、これは初期導入層(アーリーアダプター)の口座開設が一巡したためと見られ、想定内の動きと言えるでしょう。
積み上げられた硬貨のイメージ、NISA口座による資産形成の視覚化
新NISA口座開設、増加の現状と「アーリーアダプター」の動向
NISA口座は「日本在住の満18歳以上」であれば一人1口座開設が可能です。年代別の口座開設数と総人口を比較することで、各年代のNISA浸透度を把握することができます。以下は、2024年12月末時点のNISA口座数と、2024年10月時点の年代別総人口推計を比較したデータです(カッコ内は総人口に対する口座開設率)。
- 20歳代:総人口 1,277万9,000人/NISA口座 295万112口座(22.73%)
- 30歳代:総人口 1,326万6,000人/NISA口座 448万6,512口座(33.81%)
- 40歳代:総人口 1,637万6,000人/NISA口座 492万3,179口座(30.06%)
- 50歳代:総人口 1,827万8,000人/NISA口座 495万1,402口座(27.08%)
- 60歳代:総人口 1,483万9,000人/NISA口座 377万942口座(25.41%)
- 70歳代:総人口 1,608万4,000人/NISA口座 283万9,669口座(17.65%)
- 80歳以上:総人口 1,289万2,000人/NISA口座 154万4,862口座(11.98%)
このデータから、総人口比で見たNISA口座開設率は30歳代が最も高く33.81%に達していることが分かります。これは、30歳代のほぼ3人に1人以上がNISA口座を開設している計算になります。他の年代と比較して30歳代の開設率が高いのは、老後への漠然とした不安や、若いうちからの資産形成の必要性を強く感じているためと推察されます。一方で、70歳代、80歳代以上になると、「今から長期投資を始めるのは遅いのでは」という意識が強く働く傾向にあるようです。
株式と投資信託:年代によって異なる投資商品の選択傾向
NISA口座全体の残高に占める投資商品の比率を見ても、年代による明確な傾向が確認できます。まず、NISA口座全体の残高に占める株式残高の割合を見てみましょう。
- 20歳代:15.67%
- 30歳代:17.96%
- 40歳代:20.32%
- 50歳代:22.13%
- 60歳代:26.11%
- 70歳代:39.86%
- 80歳以上:58.72%
次に、投資信託(ETFの残高も含む)の残高割合を見てみましょう。
- 20歳代:84.19%
- 30歳代:81.86%
- 40歳代:79.39%
- 50歳代:77.51%
- 60歳代:73.48%
- 70歳代:59.65%
- 80歳以上:40.71%
年齢層が上がるほど株式の割合が増加し、同時に投資信託の割合が減少する傾向が顕著です。特に80歳以上では、投資信託とETFの合計残高割合を株式の残高割合が上回っています。
高齢層が株式投資を選ぶ理由:長期投資の限界と「知的刺激」の可能性
投資信託は一般的に長期投資を前提とした商品であるため、年齢層が高いほど利用しにくくなる側面があります。「人生100年時代だから、60歳からでも資産運用を始めて十分な長期投資ができる」という意見もありますが、米イリノイ大学などのチームによる最新の研究では、今後急速な寿命延長は望めないとされています。彼らの研究結果によれば、「理想的な長寿国家」のモデルにおいても、100歳まで到達できる確率は女性が13.9%、男性が4.5%に過ぎません。
この研究結果を考慮すると、80歳以上が投資信託で運用することは必ずしも適切とは言えないでしょう。むしろ株式投資は、企業の分析や市場動向の把握など、様々な点で「考える」ことが多く、その知的刺激という観点も含めて、高齢者にとって望ましい選択肢となり得るのかもしれません。
まとめ
新NISA制度の導入は、日本の投資環境に大きな変化をもたらし、多くの人々が資産形成への一歩を踏み出しています。特に30代の口座開設率が突出していることは、若い世代が将来への不安を背景に積極的に資産形成に取り組んでいる現状を示しています。また、年代が上がるにつれて投資商品の選択肢が株式へとシフトする傾向は、長期投資の前提や、高齢期の知的活動としての投資という多角的な視点を提供します。NISAは今後も、各世代の資産形成において重要な役割を担っていくことでしょう。
参考文献:
- 金融庁「NISA口座開設・利用状況調査」(各年度末時点データ)
- 総務省統計局「人口推計」(各年度10月1日現在推計)
- 米イリノイ大学などの研究チームによる寿命に関する研究結果(具体的な論文名・ジャーナル名は元記事に記載なしのため、概略で記述)