ある中小企業経営者の訴えから始まった
2002年10月、石井紘基氏は凶刃に倒れ、志半ばでその生涯を閉じました。彼は生前、日本の官僚システムの闇を暴こうと、命がけで調査を進めていました。
そのきっかけは、中小企業の建設会社を経営する友人からの相談でした。友人は、住宅・都市整備公団(住都公団)の建設工事の入札で、いつも公団の子会社である日本総合住生活に仕事を取られてしまうと訴えました。
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写真:石井紘基氏 (泉房穂氏提供)
国政調査権を駆使した真相究明
当時、特殊法人に注目していなかった石井氏でしたが、「税金で運営される特殊法人が子会社を持つとは、公金の私物化ではないか」という素朴な疑問を抱きます。そして、国会議員の権限である「国政調査権」を行使し、住都公団の調査に乗り出しました。
建設省(現・国土交通省)は資料提出を拒みますが、石井氏は粘り強く調査を続け、以下の事実を明らかにしました。
- 住都公団が出資する株式会社が24社、出捐する営利財団が6法人存在する。
- そのうち5社だけで2000億円の営業収入があり、公団からの天下り役人は子会社全体で100人を超える。
- 問題の日本総合住生活の社長は、建設省、公団、子会社と天下りを繰り返している。
- 同社の売上は年間1600億円で、業界第2位。住都公団東京支社の発注契約の7割を占めている。
特殊法人、公益法人、そして政治資金へ
石井氏はさらに調査範囲を広げ、他の特殊法人や公益法人についても調べ上げました。その結果、発注操作、放漫経営、ファミリー企業への天下りなどが次々と明らかになりました。
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写真: 1996年、公益法人について調査を行う石井紘基氏
政治資金の調査では、特殊法人全体における国会議員の利権構造も浮き彫りになりました。石井氏は、膨大な資料を前に「官僚社会主義国家・日本」の実態を確信していったのです。
未だ解明されていない真実
石井氏が収集した資料は段ボール箱63個にも及びますが、その全貌は未だ解明されていません。彼は、弱者の側に立ち、不正を許さない正義の人でした。事件から20年以上が経ちますが、彼の遺志を継ぎ、真実を追求することが求められています。