池袋寿司店従業員刺殺事件:同僚間の確執が引き金か、56歳容疑者の意外な素顔

2023年7月25日夕刻、東京都豊島区のJR池袋駅西口にほど近い繁華街にある雑居ビルで、衝撃的な事件が発生した。このビル2階に入居する寿司店前にはパトカーが複数台駆けつけ、一時物々しい雰囲気に包まれた。開店準備中の店内では、同店従業員である岩田知幸さん(32)が刺され、搬送先の病院で死亡が確認された。警視庁池袋署は、同僚の従業員である石岡雅人容疑者(56)を殺人容疑で逮捕。日常的な人間関係の悪化が凶行の引き金となった可能性が浮上している。

緊迫の事件現場と犯行の概要

事件発生当時の緊迫した状況を、近隣の飲食店従業員は「ブルーシートで目隠しされた被害者らしき人が救急車に運ばれ、シート越しに救急隊員が心臓マッサージをしているのが見えました。警察官が足にビニールカバーをつけて階段を上っていったので、“これは事件だ”と皆で話していました」と振り返る。岩田さんの死亡が確認されたのは午後5時30分のことだった。

逮捕された石岡容疑者は、店にあった刃渡り約30cmの調理包丁で岩田さんの首や胸、腹部など全身10か所以上を突き刺し、失血死させた疑いが持たれている。捜査関係者によると、犯行当時店内には他の複数の従業員がいたものの、言い争う声は聞かれておらず、突発的に刺した可能性が高いという。凶器の包丁は柄の部分で刃が折れるほど激しい殺意が窺え、全国紙社会部記者はその残忍性を指摘している。

石岡容疑者は犯行直後、近くの交番に出頭し、「人を刺した」と自ら申告。警察の取り調べに対し、「日頃から関係がうまくいっておらず、怒りが爆発した」と供述している。

同僚間の確執とそれぞれの職務

この寿司店の営業時間は午後5時から翌朝4時までで、板前が4、5人、ホール係が3人ほどで営業を回していた。石岡容疑者と岩田さんの二人は共にホールスタッフとして勤務しており、客の席案内、注文取り、ドリンク提供などを担当し、寿司を握ることはなかったという。

常連客の男性によると、石岡容疑者は約3年前に別の店舗から池袋西口店に異動してきたといい、二人の仲が悪いことは店内で知られた事実だったようだ。この常連客は「石岡さんは仕事をきっちりこなすタイプで、一方の岩田さんはあまりテキパキとしていませんでした」と証言しており、仕事に対する姿勢の違いが確執の一因であった可能性も示唆されている。

池袋の寿司店付近に集まるパトカーと、地面に残された血痕のようなもの。事件発生直後の緊迫した現場の様子。池袋の寿司店付近に集まるパトカーと、地面に残された血痕のようなもの。事件発生直後の緊迫した現場の様子。

容疑者の「意外な一面」と高校野球への情熱

石岡容疑者の周囲からは、今回の凶行とは裏腹に、「穏やかな性格で、キレたり後輩を叱る姿は見たことがない」という意外な一面が語られている。彼を知る人物が特に印象に残っているのは、その「高校野球マニア」としての顔だ。

「石岡さんといえば、高校野球マニアですよ。地元の千葉や埼玉の予選をよく観戦して、試合展開や球児の特徴を教えてくれました。『きのう観戦に行ってきましたよ。9回裏に……』と楽しそうに話していたのに。毎年、甲子園にも行っていましたし、今回の事件は本当にショックで信じられません」と、前出の常連客は驚きを隠せない様子で語る。

石岡容疑者は千葉県船橋市の賃貸アパートで一人暮らしをしていた。間取りは1LDKで家賃は約7万円。最寄り駅までは徒歩20分以上かかり、電車を乗り継いで池袋の店まで1時間半以上をかけて通勤していた。遠距離通勤を選んでいたのは、平日の日中に高校野球観戦をしても仕事と両立できるよう、夜勤にこだわっていたためかもしれない。同じアパートの男性住人は、石岡容疑者が若い住人が多い中で目立つ存在であり、「ごみ出しルールをきちんと守り、しっかりと分別していた」と、その几帳面な一面を明かしている。

事件当日は千葉県高校野球予選の準決勝が行われており、その翌々日の日曜日は決勝戦だった。この決勝戦では、石岡容疑者宅近くの強豪校・市立船橋が延長タイブレークで4点差を跳ね返し、大逆転サヨナラ勝ちを収めて3年ぶり7回目の夏の甲子園出場を決めている。「日曜日は店の定休日ですし、事件を起こさなければ観戦に行ったと思います」と常連客は推測する。

高校野球の魅力の一つは、仲間を信じるチームワークにある。エラーをしても「ドンマイ」精神で、互いを責めたりしない。そんな純粋なスポーツを愛していたはずの容疑者が、なぜ短絡的に凶行に及んでしまったのか、その動機と心理の解明が待たれる。


参考文献: