南シナ海問題でASEAN分断を画策する中国:経済力を武器に個別接近を強化

中国とフィリピンの間で南シナ海の領有権問題が深刻化する中、中国はASEAN加盟国への個別アプローチを強めている。経済力をテコにベトナムやマレーシアとの関係強化を図り、ASEAN内部の結束を揺さぶることで、フィリピン支持を鮮明にするアメリカの介入を排除しようという狙いがあると見られる。

中国、経済協力を前面にASEANへの影響力拡大を図る

10日からラオスで開催されたASEAN関連首脳会議に出席した中国の李強首相は、「中国とASEANは巨大な市場を共有している。市場間の接続強化が重要だ」と述べ、経済・貿易面での協力関係の重要性を強調した。

李首相は会議期間中、ラオス、タイ、カンボジア、シンガポールの首脳と個別に会談。投資拡大やインフラ整備などを約束し、中国との友好関係をアピールした。一方で、フィリピンのマルコス大統領やブリンケン米国務長官との会談は設定されなかった。

ベトナム・マレーシアへの接近:首脳外交と対話枠組みで関係強化を図る

会議後、李首相は11年ぶりにベトナムを訪問。12日にはトー・ラム共産党書記長と会談し、「南シナ海の平和と安定」の維持で一致した。これに先立ち、ベトナム共産党のルオン・クオン書記局常務が訪中し、習近平国家主席と会談しており、中国側は立て続けの首脳外交を通じてベトナム重視の姿勢を強く印象付けた。

中国とベトナムは社会主義国として伝統的に友好関係を築いてきたものの、南シナ海の領有権問題では度々衝突している。9月下旬には、西沙諸島(パラセル諸島)付近で操業中のベトナム漁船が中国公船に妨害され、乗組員が負傷する事件が発生したばかりだ。今回の李首相のベトナム訪問には、南シナ海問題でアメリカと連携する動きを抑制したい中国側の思惑が透けて見える。

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さらに、中国は陳暁東外務次官をマレーシアに派遣し、16日には両国間で初となる南シナ海の領有権問題に関する対話を実施した。中国側は会談後、「海洋問題について共通認識に達した」と成果を強調している。

イスラム教徒が多いマレーシアでは、パレスチナ問題を巡りイスラエルを支持するアメリカへの反発が強まっている。中国はこうした状況を踏まえ、マレーシアとフィリピンの関係に楔を打ち込もうとしている可能性もある。

中国の戦略は成功するか?ASEANの結束とアメリカの動向が焦点

南シナ海問題でASEAN内の分断を図り、フィリピンに対する優位性を築きたい中国。経済力を武器にした中国の攻勢に対し、ASEANは結束を維持できるのか。そして、ASEANへの影響力強化を図る中国に対し、アメリカはどのような対応を見せるのか。今後の動向が注目される。