韓国文学の世界進出を阻む影:ハン・ガン氏のノーベル賞受賞の裏で浮上した著作権料未払い問題

ハン・ガン氏のノーベル文学賞受賞と韓国政府の思惑

2024年、アジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した韓国の作家、ハン・ガン氏。韓国政府はこれを国を挙げて称賛し、K-POPに続く文化輸出として韓国文学、すなわち「K-BOOK」の世界進出を目指すと息巻いています。

韓国文学の世界進出を阻む影:ハン・ガン氏のノーベル賞受賞の裏で浮上した著作権料未払い問題
ノーベル文学賞受賞後、初めて公の場に登場したハン・ガン氏 (Frank May/dpa via Reuters Connect)

しかし、その輝かしい栄光の陰で、韓国文学界の闇ともいえる深刻な問題が浮上しました。なんと、ハン・ガン氏の作品が韓国国内の教科書や教材に掲載されているにもかかわらず、著作権料が一切支払われていなかったというのです。

教科書掲載34件、著作権料は1ウォンも支払われず

韓国日報、イーデイリー、トップスターニュースなど複数の韓国メディアが報じたところによると、ハン・ガン氏の作品は、韓国国内の教科書に11件、授業目的で4件、授業支援目的で19件、合計34件も掲載されているにもかかわらず、著作権料は1ウォンも支払われていませんでした。

この問題は、野党・祖国革新党のキム・ジェウォン議員が指摘し、明るみになりました。キム議員が教育目的で使われた著作物の著作権に対する補償金支給を担当する韓国文学芸術著作権協会(文著協)から提出された資料によると、ハン・ガン氏の作品は少なくとも34件も教材などに使用されているにもかかわらず、文著協はハン・ガン氏への著作権料の支払いを一切行っていなかったのです。

文著協は、著作権料未払いの理由について、「補償金分配のためには権利者の個人情報と受領同意が必要で、2017年から出版社を通じて補償金受領について案内してきた」としながらも、「ハン・ガン氏の連絡先が分からなかった」と釈明しました。しかし、ハン・ガン氏ほどの著名な作家の連絡先が分からないというのは、あまりにも不自然な言い訳に聞こえます。

著作権料未払い問題は氷山の一角か?

この問題は、決してハン・ガン氏だけに限ったことではありません。韓国では、過去10年間(2014~2023年)で、総額104億8,700万ウォン(約11億5000万円)もの著作権料が著作者に支払われていないと推定されています。毎年、約10億ウォン(約1億1000万円)もの著作権料が、著作者に支払われないまま文著協に積み立てられている計算になります。

韓国の著作権法では、教科書に掲載される著作物の場合、文化体育観光部(日本の文部科学省に相当)が指定した補償金受領団体(今回は文著協)を通じて、出版後に著作権者に補償することになっています。出版社から著作権料を先に徴収し、それを後から著作権者に分配するという仕組みです。

しかし、このシステムでは、作家自らが直接申請しなければ、著作権料を受け取れない可能性が高く、実際には多くの作家が著作権料を受け取れていないのが現状です。

文著協は著作権者の権利を守らず、自らの利益を優先?

さらに問題なのは、受領されないままになっている著作権料は、5年が経過すると、文著協が文化体育観光部の承認の下に公益目的で使用することができるという点です。この制度を利用して、文著協はこれまでに約138億ウォン(約15億円)もの著作権料を使用しており、その内訳は、補償金分配システム改善に25億2,000万ウォン(約2億7500万円)、著作権使用実態調査に15億2,000万ウォン(約1億6000万円)、著作権者広報キャンペーンに7億4,000万ウォン(約8000万円)となっています。

今回の問題を指摘したキム議員は、「ハン・ガンさんの連絡先が分からなくて著作権料を支給しなかったという文著協の釈明は非常に荒唐無稽だ。著作権補償金は作家たちの権利を保護し創作活動を支援するための制度だが、文著協がこれを疎かにしたまま自分たちの収益増大だけに重点を置くことは深刻な問題だ」と批判し、「著作権者たちが正当な代価を受けられるよう即刻措置が必要だ」と訴えています。

韓国文学の世界進出は実現するか?

今回の問題は、韓国文学界の抱える構造的な問題を浮き彫りにしました。韓国政府は、ハン・ガン氏のノーベル文学賞受賞を機に韓国文学の世界進出を推進しようとしていますが、そのためには、まず、著作権料の未払い問題など、自国の文学界の抱える問題を解決することが先決なのではないでしょうか。