美智子さまが10月20日、90歳の誕生日を迎えられた。長年交流のある末盛千枝子氏(83)が 「文藝春秋 電子版」のインタビュー に応じ、50年にわたる美智子さまとの交流秘話を語った。
編集者として、美智子さまの著書『橋をかける』(1998年)を手掛けたことでも知られる末盛氏。そもそもの出会いは、末盛氏の父で戦後日本を代表する彫刻家、舟越保武の作品が関係しているという。
「私が編集者見習いをしていた出版社の雑誌が、父のデッサンを表紙に使っていました。美智子さまはこれをお読みになっていて、表紙をいたくお気に召していたらしいんです。その頃、画家の堀文子さんの家で集まりがあって、私は手伝いに駆り出され、そこでお目にかかったのが最初。私は20代後半でした」
美智子さまが購入された作品の背景
舟越保武のファンだったという美智子さま。これまで舟越作品を2点、購入されたことがあるという。
「父の展覧会が世田谷美術館(「信仰と詩心の彫刻六十年 舟越保武の世界」、1994年)でありました。その新聞広告をご覧になって美術館にいらして、とても喜んで作品を見てくださいました。そして、どうしても欲しいという話になって。詳しい経緯はもう覚えていないんですけれど……」
そうして購入された作品が「聖ベロニカ」だった。
「ベロニカは、キリストが十字架を背負って、血の汗を流しながらヨタヨタと刑場に向かって歩いているときに、気の毒に思って周囲のローマ兵をものともせず、白い布を差し出す。『これでお顔をぬぐってください』と。これは聖書に出てくる話ですが、父はとても好きだったので、ベロニカは何回も作っています」
しかし、「聖ベロニカ」を購入される際に、他に迷われていた作品があった。
「迷われていたのは『ゴルゴダ』(1989年)というキリストの顔の像。でも、御所にキリストの像というわけにはいかないんじゃないかと私は思ったんですけど、陛下にご相談になったらしいんです。そうしたら陛下は、まったく淡々と『それはかまわないよ』とはおっしゃったらしい。上皇さまはおおらかだと思いましたし、神道の考え方がおおらかなのかなと思いました。このことを通して思ったのは、美智子さまは本当にあらゆることを陛下にご相談なさりながら進めていらっしゃるということでした」