豪州と中国:揺らぐ蜜月関係、経済安全保障の観点から紐解く

近年、緊密な関係を築いてきたオーストラリアと中国の間には、経済安全保障上の懸念から亀裂が生じている。かつては親中的な政策を推進してきたオーストラリアだが、近年は中国への警戒を強める姿勢を見せている。

本稿では、オーストラリアと中国の関係がどのように変化してきたのか、その背景や今後の見通しについて、経済安全保障の観点から解説する。

経済安全保障上の懸念から親中から反中へ

オーストラリアと中国の国旗オーストラリアと中国の国旗

オーストラリアは、豊富な資源を背景に中国と緊密な経済関係を築いてきた。2005年頃から自由貿易協定交渉が進められ、中国からの投資を受け入れるとともに、石炭などの資源を輸出してきた。

しかし、中国からの投資増加は、オーストラリア国内で経済安全保障上の懸念を引き起こすようになった。

中国資本の浸透とインフラ支配への懸念

オーストラリアの電力網オーストラリアの電力網

特に、電力会社や港湾などの基幹インフラに対する中国国営企業による投資や買収が増加したことが問題視されている。例えば、豪ビクトリア州の電力供給会社5社の所有権が中国企業に移ったほか、ダーウィン港の99年の租借権が中国企業に売却された事例もある。

これらの動きは、オーストラリアの重要なインフラが中国の影響下に置かれる可能性を示唆しており、経済安全保障上のリスクとして認識されるようになった。

在豪華人による政治への影響力

在豪華人のコミュニティ在豪華人のコミュニティ

さらに、オーストラリア国内では、在豪華人が政界や財界に深く浸透していることも指摘されている。豪国会議員に対する大規模な汚職事件をきっかけに、中国当局の意図に基づいた政策推進や世論形成が行われている可能性が懸念されるようになった。

対中強硬路線への転換とアルバニージ政権の姿勢

これらの懸念を背景に、オーストラリアは対中政策を転換し、中国への警戒を強めるようになった。2016年には外国投資審査委員会を強化し、基幹インフラに対する外資規制を強化した。

2018年以降は、安全保障面でも中国への対抗姿勢を鮮明にしており、日米豪印4カ国による安全保障対話(クアッド)への参加や、米英豪による安全保障枠組み「AUKUS」の創設など、中国を牽制する動きを強めている。

2022年に就任したアルバニージ首相は、労働党出身でありながら、対中強硬姿勢を維持する構えを見せている。

揺らぐ蜜月関係の行方

オーストラリアと中国の関係は、経済安全保障上の懸念から大きく変化している。オーストラリアは、国家の安全保障を最優先に考え、中国からの影響力を抑制する政策を推進していくとみられる。

一方で、中国はオーストラリアにとって依然として重要な貿易相手国であることから、両国関係は緊張と協調が入り混じった複雑な状況が続く可能性が高い。