梶山正の「ベニシアと過ごした最後の日々」
ハーブ研究家のベニシア・スタンリー・スミスさんの夫、梶山正さんが、2人で過ごした最後の日々をつづります。
ベニシアの入所したグループホームで2022年7月、新型コロナウイルスの集団感染が発生しました。ベニシアも感染して肺炎を患い、8月24日に日本バプテスト病院に運ばれて、そのまま入院します。痩せこけたベニシアの姿に僕は衝撃を受けました。家に帰っても心配で何も手に付きません。翌日も午後3時過ぎにはグラスに酒を注ぎ、一人ため息をついていました。
僕の声を聞いたら…
ベニシアは19歳でイギリスを離れ、陸路でインドに入り、アシュラム(瞑想道場)で5か月間、瞑想する日々を送りました。その後は、香港から船で日本に向かいました。夢を追う若者の冒険だったのではないでしょうか。
日本での生活はかれこれ51年になり、そんなベニシアがいま、祖国から遠く離れた日本で死にかけているのです。
電話のベルが鳴りました。
「バプテスト病院の看護師です。今からベニシアさんに会いに、病院へ来てもらえますか?」
「え? コロナで面会禁止だと言われましたけど……」
「ベニシアさんは落ち着かず、不安でおびえています。安心させるために来てください」
だが、僕はもう酒を飲んでしまった。今日は運転ができない。
翌日、僕はバプテスト病院にバイクを走らせて、午後3時ちょっと前に到着しました。リハビリ担当の理学療法士が、ベニシアを車椅子に乗せて病院の駐車場を散歩させると聞いていたのです。面会禁止中なので病室には入れません。
僕は森に囲まれた広い病院の駐車場で、車椅子に乗ったベニシアの姿を見つけました。
「ベニシア、正だよ。会いに来たよ」。目は見えないが、声でわかったのでしょう。不安げな様子からうれしい表情に変わりました。看護師と事務員が僕たちに合流してくれました。気を使って見に来てくれたようです。やがて湊(みなと)先生もやって来ました。
それまで約1年1か月の間、ベニシアが滞在したグループホームでは、しばらく面会禁止が続いた後に会いに行くと、言葉が出なくなり、歩けなくなっているベニシアの様子に困惑しました。禁止が解かれてから毎日面会に行くと、目やにがついていたり、爪が伸びたままになっていたりすることもありました。そして今回、コロナによる面会禁止で44日ぶりに会ったベニシアは、驚くほど痩せて弱々しくなっていたのです。
そんな経験をした後に巡り合った病院です。ここバプテスト病院の人たちは、患者と家族に対して、常に気をかけてくれます。