■「第三次ベビーブーム」は来なかった
「モノより思い出。」
そんな名コピーの日産セレナの広告が話題になったのは1999年でした。高度経済成長期を支えた所有価値としての「モノ消費」の時代から、体験価値としての「コト消費」の時代へと移行するターニングポイントでもあったと思います。
当時、クルマ業界はミニバンブームへの入り口にさしかかっており、各社とも主力車種としてミニバンを次々と発売していました。
なぜか。それは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本では「第三次ベビーブーム」が起きるはずだったからです。1970年代の「第二次ベビーブーム」で生まれた世代が、丁度結婚して家族を形成する年齢になるためで、ファミリーカーとしてのミニバンの需要が見込まれていました。
しかし、その「第三次ベビーブーム」は起きなかった。
■母親となる女性人口が激減している
バブル崩壊に伴う経済不況と、あわせて若者には就職氷河期が到来し、とても安心して恋愛や結婚をできる環境ではなくなっていました。出生以前に婚姻が激減しはじめたのもこの頃です。経済不況に伴い、手取り収入があがらず、結果消費の停滞も始まりました。「コト消費」などと言われても、一般庶民はそれどころではなかったかもしれません。いわゆるデフレ経済の「失われた30年」の始まりです。
2022年の合計特殊出生率は1.26でしたが、実は、2005年にも一度1.26の出生率を記録しています。それまでの過去最低記録でした。
「これはまずい」と政府が少子化担当大臣を設置し、少子化対策なるものに着手しはじめたわけですが、年間出生数は2005年の106万人から、2022年には77万人という激減で、まったく成果はあがっていません。
出生率が同じ1.26なのに、どうして出生数に差があるのでしょうか。それは、当出生率の計算式の分母が15~49歳の女性人口であり、2005年と2022年とを比べるとその女性人口自体が激減しているからです。なぜならば、2022年に出産ボリューム年齢である20代後半にあたる女性は、「幻の第三次ベビーブーム」期に生まれているからです。そもそもその時の出生数が少ないため、文字通り母数そのものが減少したことによります。これが、たびたび私が言っている「少母化」というものです。