〈「処置に困っています」地下鉄サリン事件発生直後、被害者が次々に運び込まれ…病院からの切迫した“電話の内容”〉 から続く
猛毒サリンを使った無差別テロ「地下鉄サリン事件」からおよそ30年。『 警視庁科学捜査官 』(文春文庫)より一部を抜粋。著者で科捜研研究員だった服藤恵三氏が取材を受けたNHK「オウム VS. 科捜研 ~地下鉄サリン事件 世紀の逮捕劇~」(新プロジェクトX~挑戦者たち~)が10月26日に放送される。本書ではオウム真理教教祖・麻原彰晃(松本智津夫)逮捕のためサリン製造の全容解明に尽力した知られざるドラマに迫る。(全4回の3回目/ #4 に続く)
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「誰か、オウムの組織がわかるやつはいないかな」
連日、分析・報告・相談に追われながら、捜査一課長室を拠点に活動していた。帰宅は深夜の3時4時になった。それまでの分析結果をまとめて「サリン生成に関する証拠の分析結果について」を作成したのは、4月17日だった。
その直後の午前0時過ぎ、いつものように刑事部長室で石川部長に報告をしていると、寺尾一課長が加わった。この頃になると、刑事部長室で3人で話す機会が多くなっていた。一課長が部長に向かって、そろそろサリン関連の令状請求準備にかからなければいけないと言うと、
「誰か、オウムの組織がわかるやつはいないかな」と部長。
「全体がわかる者はいませんね」と一課長。
「あのぉ。それって、麻原の下に科学技術省大臣の村井秀夫や建設省大臣の早川紀代秀がいて、村井の下に次官のWやTがいる、というような組織図ですか」と私。
「ハラさん(寺尾一課長は、私のことを「ハラさん」と呼ぶようになっていた)、それわかるのか」
「服藤君、どうしてわかるんだ」
驚いたように、2人から同時に訊かれた。
「私は捜査のことはわからないし内容も聞いていませんが、科学的な部分だけ読み込んでいても、それぐらいはわかります」
実験ノートやフロッピーディスク、信者の手帳類、科学的な内容が記載されている箇所だけのコピーでも、読んでいると「誰に報告」「誰に指示」など、上下関係が自ずと見えてくる。登場する人物名は、ホーリーネームも併せて全部覚えてしまっていた。