近未来SFで「生と死」を問う、俳優・井浦新の新たな挑戦
2024年も映画にドラマに、多方面で活躍中の俳優・井浦新さん。公開中の主演映画『徒花 -ADABANA-』(以下、『徒花』)では、死を目前にした男とそのクローンという難役の一人二役に挑んでいる。今回は、井浦さんに『徒花』の撮影秘話や、俳優活動にかける思いについて伺った。
自分と対峙する感覚―「それ」との出会いは刺激的
井浦新さん撮り下ろし
――『徒花』は、富裕層のみが延命のために自分のクローンを所有できる近未来が舞台です。井浦さん演じる主人公・新次は、病に倒れ、自身のクローンである「それ」と対面することになります。初めて「それ」と対峙した時、どのようなお気持ちでしたか?
井浦新さん(以下、井浦):「楽しい」という感覚しかありませんでしたね。
――それは、俳優として、ということでしょうか?
井浦: ええ。この映画の世界では、医療の進歩によってクローンの存在が認められています。その設定自体が、僕にとって非常に刺激的でした。一人二役ということで、もちろん役作りには苦労しましたが、それ以上にやりがいを感じました。自分と全く同じ姿形をした「それ」を作り上げ、対峙させるという経験は、なかなかできることではありませんからね。
同じ遺伝子を持つ「別人」を作り上げる
――「それ」の動き方や声のトーンなどは、脚本に細かく指示されていたのでしょうか?
井浦: いいえ、そういった部分は俳優側に委ねられていました。「それ」は新次と全く同じ遺伝子を持つクローンですが、育った環境は全く異なります。肌の色つや、声の質、姿勢、そういった細部にまで違いを出すことで、「それ」は新次とは別の個性を持った存在として立ち現れてくるんです。
映画「徒花」のワンシーン
―― 特に印象的なのが、物語後半に登場する「かたつむり」や「トンボ」の会話シーンです。あのシーンの撮影秘話を教えてください。
井浦: 実はあのシーン、「それ」の撮影が始まってわずか2日目に撮ったんです。それまでに、僕の中で新次という人物像をじっくりと作り上げていきました。そして、満を持して「それ」との対面シーンに臨んだわけです。研究所という特殊な環境で育った「それ」をどのように表現するべきか、試行錯誤を重ねた結果、あの場にふさわしい「それ」の姿に行き着くことができました。
――「それ」と対峙したというよりは、出会ったという感覚でしょうか?
井浦: そうですね。それはまるで、自分の中に眠っていたもう一人の自分と出会ったような、不思議な感覚でした。