中学受験をする家族を描いたあるマンガが話題を呼んでいる。これはリアルなのか、それともフィクションなのか……。虐待について多く取材執筆してきたノンフィクション作家・石井光太氏の『教育虐待:子供を壊す「教育熱心」な親たち』(ハヤカワ新書)を原作とする同名マンガについて、ウェブ上のレビュー欄には塾の説明会を受けた親などのコメントも並ぶ。将来の受験を見越して低学年から塾に通うことが当たり前のように加熱し続けるこの風潮を石井氏はどう見ているのか。教育虐待の実態に迫った前編に続き、語ってもらった。
■犠牲になるのは洗脳された親ではなく、その子ども
――マンガの中には、中学受験をきっかけに、事件を起こしてしまった母親の話がありました。母親はある種、洗脳されたような状態になっていました。
塾はビジネスですから、あの手この手で売り上げを上げる必要があります。たとえば「このコースを受けなければ合格は保証できない」「講習をどれだけ取るかで決定的な差がつく」「この夏が人生を決める」といった文句もそうですよね。
ただ、営業における洗脳的な手法は、どんなビジネスでもあると思うんです。例えば、これを買わなきゃダメだとか、これが最高なんだというような営業トークだってある種の洗脳で、そういう思い込みをさせることによって商品を買わせている。塾ビジネスにおいて似たようなことが行われるのは、商売のうえでは自然なのかもしれません。
ただ、中学受験の場合は、その犠牲になるのは洗脳された親じゃなくて、その子どもというところに問題があります。親が洗脳された結果、一番苦しむのは子どもというのがよくない。
東京には中学受験をする子が学年の6割、7割いるという地域もありますが、そういう地域でない限り、子どもが自分から「中学受験がしたい」と手を挙げるのは稀じゃないですか? 全体の1割か2割のたまたま頭のいい子たちが「僕、頭がいいからやってみたい」となるケースはあるでしょうが、その場合は本人がやりたくて行くのでいいのです。けど、そのほかの子は親がある種やらせているとしか考えられない部分がありますよね。