>>>「与党に極大な貸しを作り、野党にも賛同できる…国民民主党「自公連立入り拒否」の打ち手がなぜうまいと言えるか? 【西田亮介の週刊時評】」から続く
【写真】与党議員が野党議員にグーパンチする決定的瞬間。数で押し切る「強行採決」はいよいよ終わるか
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
■ 憲法改正の現実味は大きく後退
自公の議席減で大きな影響を受けるのは政局と国民生活だけではない。国政上の大きな政策や国会運営も大荒れになるはずだ。
例えば憲法改正。近年の肯定的な意見が増え賛否が拮抗するようになっただけではなく、憲法改正の発議に必要な両院でそれぞれ3分の2という、これまでは高いハードルと思われてきた議員定数上の条件を満たすようになっていた。
数の上では憲法改正の発議に相当近づいていたのである。
報道ではとかく過半数の行方に関心が集まりがちだが、与党をはじめ憲法改正を主張する政党の議席が大きく減ったことで、この間、各社の世論調査などでも拮抗していた憲法改正の発議に必要な条件を満たさなくなった。
またこれからの政局や不安定化するであろう政権運営を念頭においても、近い政治日程における憲法改正やその前段の発議の現実味は大きく後退した。
■ 自民党政治の「数で押し切る」手法は困難になった
それだけではない。また2010年代に入って与党が維持してきた、国会に設けられ、本会議における議席数が反映される常任委員会のすべてにおいて委員長を選出し、過半数の委員を確保できるいわゆる絶対安定多数(261)はおろか、委員長と与野党同数の委員を確保できる安定多数(244)も下回った。
これが前回記事の冒頭にも言及した「宙吊り議会」(hung parliament)の仔細である。
ある意味では眼下の特別国会における首班指名選挙の行方よりもよほど深刻だ。来年の通常国会で予算案や法案の成立が難しくなることを想像させ、2010年代以後の自民党政治の既定路線でもあった、最後は議席数で押し切る方法が困難になるからだ。
10年以上にわたって自公連立を所与のものとする政治環境が続いただけに、野党との調整や交渉経験、ネットワークが豊富なかつての自民党の大ベテラン議員たちも政界を去り、そのような経験をしたことがない自民党議員の比率が増えた。
なにより経験があるものの腕も相当なまっているだろう。それを取り戻すことができるだろうか。
国民民主党は連立を組む合理的理由に乏しく、それだけに野党サイドで固まって内閣不信任案を提出するような場合にも無理なく賛成することができる。
野党の主張や批判、法案に対する修正要求に対して、これまでとは異なる真剣さをもって耳を傾けざるをえなくなるはずだ。