クリント・イーストウッド監督最新作『Juror No.2』:静かな公開と巨匠の晩年

ハリウッドの巨匠、クリント・イーストウッド監督の40作目となる最新作『Juror No.2』が、静かに、そして異例とも言える小規模公開という形で北米で劇場公開されました。『硫黄島からの手紙』や『ミリオンダラー・ベイビー』など、数々の名作を世に送り出してきた94歳の巨匠の、もしかしたら最後の監督作品となるかもしれない本作。その公開方法は、多くの映画ファン、そして業界関係者に驚きを与えています。

クリント・イーストウッド監督最新作『Juror No.2』のポスタークリント・イーストウッド監督最新作『Juror No.2』のポスター

控えめな公開、その背景とは?

長年のパートナーであるワーナー・ブラザース配給にも関わらず、本作の北米での上映館数はわずか35館。大規模公開の予定もなく、プロモーションも最小限。興行収入も公式発表されていません。インディーズ映画ならまだしも、大手スタジオの作品としては異例の事態です。一体なぜこのような形での公開となったのでしょうか?

ハリウッド映画評論家の佐藤健一氏(仮名)は、「コロナ禍以降、映画業界の構造が大きく変化したことが影響している」と指摘します。「大人向けのドラマ映画は劇場でヒットしにくくなっており、ストリーミング配信が主流になりつつある。当初、『Juror No.2』も配信作品として計画されていたが、試写での高評価を受けて劇場公開に踏み切ったようだ。しかし、ワーナーはそれでも興行的な成功に確信を持てなかったのではないか」と分析しています。

倫理的葛藤を描く法廷スリラー

『Juror No.2』は、ある殺人事件の陪審員に選ばれた男の倫理的葛藤を描いた法廷スリラーです。アルコール依存症から回復中のジャーナリストである主人公は、事件当日に現場付近で車を運転中に何かがぶつかったという記憶に苛まれます。真実を語れば自身に嫌疑がかかる可能性がある一方、沈黙を守れば無実の男が罪に問われるかもしれない。緊迫感あふれる展開に、観客は主人公の苦悩に共感することでしょう。

ニコラス・ホルト、トニ・コレット、キーファー・サザーランド、J・K・シモンズといった実力派俳優陣の熱演も、本作の魅力の一つです。洗練された演出と脚本、そして俳優たちの迫真の演技は高い評価を受けており、映画批評サイトRotten Tomatoesでは91%フレッシュを獲得。イーストウッド監督の新たな傑作との呼び声も高い作品です。

興行成績とワーナーの思惑

ワーナーは限定公開の理由を「賞レースの条件を満たすため」と説明していますが、実際には賞レースに向けてのプロモーションは行われていません。同社の賞レース用プロモーションサイトには『デューン 砂の惑星PART2』や『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』などの作品は掲載されているものの、『Juror No.2』の名前はありません。

公開週末3日間の興行収入は、報道によれば26万~27万5000ドル。35館限定公開としてはまずまずの数字と言えるでしょう。しかし、製作費が3000万ドルであることを考えると、大きな成功とは言えません。

映画ジャーナリストの山田花子氏(仮名)は、「ワーナーは興行的失敗のリスクを避けたかったのだろう」と推測します。「もし失敗すれば、イーストウッド監督は『時代遅れのフィルムメイカー』と批判される可能性もあった。巨匠の晩年に傷をつけることを恐れたのではないか」と語っています。

巨匠の未来、そして映画の未来

『Juror No.2』の静かな公開は、映画業界の現状を反映していると言えるかもしれません。ストリーミング配信の台頭、コロナ禍の影響、そして巨匠の晩年という様々な要素が絡み合い、異例の事態を生み出したと言えるでしょう。今後の展開、そして巨匠の未来に注目が集まります。