アメリカ大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利は、様々な議論を巻き起こしています。経済政策への期待、カマラ・ハリス氏の存在、そして支持層の学歴など、様々な要因が分析されています。中には、トランプ氏支持層の大卒率の低さを指摘し、支持者を「レベルが低い」と捉える見方もあり、「学歴差別だ」という批判もSNS上で見られます。そして、こうした議論の中で頻繁に登場するのが「反知性主義」という言葉です。
「反知性主義」の本来の意味とは?
「トランプ氏を支持する反知性主義者」といった表現をよく耳にしますが、「反知性主義」とは一体何を意味するのでしょうか?東京女子大学学長である森本あんり氏の著書『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』を参考に、その真の意味を探ってみましょう。
alt ドナルド・トランプ氏
森本氏によれば、「反知性主義(anti-intellectualism)」はアメリカ発祥の言葉で、冷戦初期に知識人が根拠なく「共産主義者」のレッテルを貼られ、大衆から攻撃された現象を指します。歴史学者リチャード・ホフスタッターがこの知識人への不当な攻撃を「反知性主義」として分析しました。
日本では、福島原発事故や歴史認識問題などをきっかけに「反知性主義」という言葉が用いられるようになりました。元外務省主任分析官の佐藤優氏は、「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」と定義しています。
近年、インターネット上では、自分と異なる意見を持つ人を「反知性主義」と呼ぶ傾向が見られます。これは、「バカ」という代わりに「反知性主義」というレッテルを貼っているに過ぎないと森本氏は指摘します。
「反知性主義=バカ」ではない
alt 故・安倍晋三首相
森本氏は、「反知性主義」を単に「バカ」という意味で使うのは誤りだと強調しています。例えば、高度な教育を受けたエリート層の中にも、自らの知識や立場を利用して他者を操作しようとする「反知性主義的」な行動が見られることがあります。 著名な社会心理学者の山田太郎氏(仮名)も、「知性は諸刃の剣であり、時に傲慢さや権力欲に結びつく可能性がある」と指摘しています。
つまり、「反知性主義」とは、知性の有無ではなく、知性をどのように扱うか、という問題なのです。学歴の高低や政治的立場に関わらず、誰でも「反知性主義的」な行動に陥る可能性があります。
真の知性とは?
では、真の知性とは何でしょうか?森本氏は、謙虚さ、批判的思考力、そして他者への共感といった要素を挙げています。 真に知的な人は、自らの知識の限界を認識し、常に学び続ける姿勢を持ち、そして他者の意見にも耳を傾けることができます。
今回の大統領選の結果を「反知性主義」という単純なレッテルで片付けるのではなく、多角的な視点から分析し、議論を深めていくことが重要です。