対局は京都の世界遺産、仁和寺の静謐な雰囲気の中で行われましたが、盤上は熱気に満ち溢れていました。第37期竜王戦七番勝負第3局、藤井聡太竜王と佐々木勇気八段の対決は、まさに息詰まる攻防の連続。佐々木八段の秘策、そして藤井竜王の驚異的な終盤力。この記事では、この歴史的な一戦を詳細にレポートします。
佐々木八段、7年ぶりの振り飛車!角交換型ダイレクト向かい飛車で勝負
佐々木八段が2手目に△3四歩と指す様子。
後手番の佐々木八段は、なんと2手目に△3四歩。居飛車党として知られる佐々木八段が角道を開けたことに、控室の棋士たちも驚きを隠せませんでした。この大胆な一手は、角交換型ダイレクト向かい飛車への布石。佐々木八段が対抗形の振り飛車を指すのは実に7年ぶり。まさに「秘策」と言える一手でした。対する藤井竜王はバランス型の布陣を選択。佐々木八段は銀冠に囲い、厚みを重視した駒組みを築き上げます。序盤から緊迫した空気が流れました。
騒音トラブル発生!仁和寺の退館アナウンスに佐々木八段が苦言
耳をふさいで考慮する佐々木八段。
対局中、思わぬハプニングが発生しました。午後4時半過ぎ、仁和寺の退館アナウンスが、大音量で、しかも複数言語で流れ始めたのです。佐々木八段は耳をふさぎ、明らかに集中を阻害されている様子。控室にも「明日はアナウンスを止めてほしい」という要望が伝えられました。立会人の福崎文吾九段は、かつて滝の音を止めさせた加藤一二三先生を引き合いに出し、冗談めかしていましたが、事態は深刻でした。仁和寺の僧侶たちが控室に駆け込み、真剣な協議が行われました。佐々木八段の指摘は的確でした。秒読みの最中にアナウンスが流れていたら、勝負に大きな影響を与えかねません。仁和寺側は両対局者に謝罪し、翌日の対策を講じることになりました。
藤井竜王、苦しい展開を強いられる
第1図
盤上では、研究に裏打ちされた佐々木八段の指し手が冴え渡り、持ち時間も温存することに成功。藤井竜王は「出だしから想像していない展開」と語るほど、佐々木八段の振り飛車に意表を突かれた様子でした。後手陣の厚みを崩すため、▲9六歩(第1図)と端攻めに出たところで、初日の対局は終了。封じ手を迎えることになりました。藤井竜王は封じ手の局面について「攻めがつんのめって、すでに苦しい」と厳しい表情で語っていました。
終局、藤井竜王が驚異の逆転勝利!
終局後、ソファでうなだれる佐々木八段。
2日目、佐々木八段が優位に進めていたものの、終盤戦で藤井竜王が驚異的な粘りを見せます。複雑な局面が続く中、藤井竜王は正確な読みで佐々木八段を追い詰め、見事な逆転勝利を収めました。佐々木八段は対局後、「視覚の外から寄せられた」と悔しさを滲ませていました。まさに、トップ棋士同士の熱い戦いが繰り広げられた一日でした。