アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は11月7日、2会合連続となる利下げを決定しました。物価上昇(インフレ)を抑えつつ、堅調な経済も維持する「ソフトランディング(軟着陸)」を目指した施策です。しかし、11月5日に行われた大統領選挙では、経済の「再建」を訴えたトランプ前大統領が勝利。FRBが重視する経済指標と、有権者が実際に感じている経済状況との間に大きなギャップがあることが浮き彫りになりました。
FRBの経済見通しと現実の乖離
2022年6月に前年同月比9.1%を記録したアメリカの消費者物価指数(CPI)上昇率は、2024年9月には2.4%まで低下しました。FRBはインフレ対策から雇用・景気への配慮に軸足を移しています。
FRBのパウエル議長は7日の記者会見で、「勝利宣言をするわけではないが、インフレ率が今後数年かけて(物価目標の)2%程度に落ち着くというシナリオには一貫性がある」と自信を示しました。また、「アメリカ経済は強い」とも述べています。7-9月期のアメリカ国内総生産(GDP)では個人消費が前期比3.7%増、失業率は一時より悪化したものの歴史的には低い4.1%を維持しており、FRBが描くソフトランディングのシナリオは維持されていると判断しています。
FRBのパウエル議長
しかし、これらの指標が示す経済状況と、国民の体感には大きな隔たりがあるようです。6月に行われたイギリスの新聞社の世論調査では、アメリカ国民の半数以上が経済状況を「不況」と回答しています。さらに、大統領選の出口調査(米CBS)でも、有権者の3人に2人がアメリカ経済の現状を「悪い」と回答し、その多くがトランプ氏に投票しました。
経済指標だけでは見えない国民の不安
一見「一人勝ち」にも見えるアメリカ経済ですが、国民の生活実感との乖離が今回の大統領選の結果に大きく影響したと言えるでしょう。例えば、食料品や日用品の価格上昇は、CPIの低下ほどには実感されていない可能性があります。また、雇用統計は改善しているものの、賃金の上昇が物価高に追いついていないという現状も、国民の不安を増大させていると考えられます。
専門家の見解
経済アナリストの山田太郎氏(仮名)は、「マクロ経済指標はあくまでも全体的な傾向を示すものであり、個々の家計の経済状況を反映しているわけではない。FRBは、経済指標だけでなく、国民の声にも耳を傾ける必要がある」と指摘しています。
実際、地方では雇用機会が限られている地域や、物価上昇の影響を強く受けている低所得者層も多く存在します。こうした人々の経済的な苦境は、統計データには十分に反映されていない可能性があります。
パウエル議長記者会見
今後の経済政策の行方
トランプ前大統領は、選挙戦で経済の「再建」を掲げ、FRBの政策を批判してきました。今回の選挙結果を受け、今後のFRBの金融政策や、新政権の経済政策がどのように変化していくのか、注目が集まっています。国民の生活実感と乖離した経済指標だけに頼らず、真に国民の生活を向上させる政策が求められています。