女性外科医のパイオニア、河野恵美子氏の挑戦:手術器具開発から函館宣言まで

外科医不足が深刻化する現代日本。その中で、女性外科医の活躍推進に尽力する河野恵美子氏の取り組みは、医療現場に希望の光を灯しています。大阪医科薬科大学に所属する消化器外科医である河野氏は、数々の困難を乗り越え、女性外科医が働きやすい環境づくりに情熱を注いできました。本記事では、河野氏のこれまでの挑戦と、日本の外科医療の未来について深く掘り下げていきます。

女性外科医としてのキャリアと葛藤

宮崎医科大学医学部卒業後、河野氏は外科医の道を選びました。「自分の腕でがん細胞を取り除く」という外科医の仕事に大きな魅力を感じたといいます。結婚、出産を経て職場復帰した河野氏は、子育てと外科医の仕事の両立という壁に直面します。長時間労働が当たり前の外科の世界で、家庭と仕事を両立することは容易ではありませんでした。

altalt河野恵美子氏:大阪医科薬科大学 消化器外科医 (出典:『医学部進学大百科2025完全保存版』プレジデントムック)

当時の医療現場では、子育て中の女性医師に対する理解は十分ではありませんでした。河野氏は、病院の近くに引っ越し、朝勤務、夕方帰宅、再び夜間勤務に戻るという過酷な生活を送りながら、患者への責任を果たそうと努力しました。しかし、周囲の女性外科医が次々と職場を去る姿を目の当たりにし、無力感に苛まれたといいます。

女性外科医支援への熱い想い

2008年、河野氏は日本外科学会で「子育て外科医は継続可能か?」というテーマで発表を行いました。当時、「男女共同参画」という概念はまだ一般的ではありませんでしたが、河野氏の発表は、女性外科医の置かれた厳しい現状を世に知らしめる大きな一歩となりました。

河野氏は、女性外科医が直面する課題の一つとして、手術器具の問題を指摘します。欧米の男性向けに設計された器具は、女性の手には大きすぎ、繊細な手術操作を難しくしていました。そこで、河野氏は「外科医の手プロジェクト」を立ち上げ、メーカーと協力して男女共用仕様の医療機器開発に取り組み始めました。

altalt河野氏の手術風景 (出典: president.jp)

さらに、2015年には「消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)」を設立。子育て中の女性医師も参加しやすいよう、託児サービス付きセミナーやオンデマンド配信などを実施し、女性外科医の育成と支援に尽力しました。

函館宣言と未来への展望

河野氏のたゆまぬ努力が実を結び、2023年7月、日本消化器外科学会は「函館宣言」を発出。「男女の均等な活躍を支援すること」を明記し、女性外科医の活躍推進を公式に表明しました。この宣言の背景には、河野氏が中心となってまとめた女性消化器外科医に関する論文が大きな影響を与えています。

河野氏自身も、弟をすい臓がんで亡くした経験から、外科医としての使命を改めて強く認識したといいます。患者とその家族の苦しみを理解し、より一層患者に寄り添う医療を実践しています。

多忙を極める日々の中で、河野氏自身も体調を崩した時期がありました。しかし、それでもなお、女性外科医の未来を切り開くために活動を続けています。河野氏の挑戦は、多くの女性外科医に勇気を与え、日本の医療の未来を明るく照らすことでしょう。

まとめ

河野恵美子氏のこれまでの活動は、女性外科医が活躍できる社会の実現に向けた大きな一歩です。手術器具の開発、支援団体の設立、そして函館宣言への貢献など、彼女の功績は計り知れません。今後、より多くの女性が外科医の道を選び、医療現場で活躍することを期待し、河野氏のさらなる活躍を応援したいと思います。