老老介護の現実:90代夫婦の限界と「あたりまえ」の呪縛

高齢化社会が進む日本では、「老老介護」という言葉が社会問題として広く認識されています。高齢の配偶者や親を、同じく高齢の家族が介護する状況は、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかり、共倒れのリスクも高まります。今回は、90代女性のケースを通して、老老介護の厳しい現実と、それを取り巻く社会的な課題について考えてみましょう。

限界に達した夫婦生活:介護と家事の重圧

社会学者の春日キスヨさんは、90代女性のAさんの例を挙げています。Aさんは、高齢の夫の介護と家事に追われ、心身ともに疲弊しきっていました。Aさんは春日さんに「夫婦生活は限界に達した」と訴え、「妻が家事を担うのがあたりまえ」という社会通念が、彼女をさらに追い詰めていたといいます。

90代高齢者夫婦のイメージ90代高齢者夫婦のイメージ

長年連れ添った夫婦にとって、介護は愛情表現の一つと言えるかもしれません。しかし、介護する側が高齢者の場合、体力的な限界や健康上の問題を抱えていることも多く、介護の負担は想像以上に重くなります。Aさんのように、家事と介護の両方を担う女性は、特に大きな負担を強いられています。

「あたりまえ」の呪縛:社会通念が女性を苦しめる

Aさんのケースで注目すべきは、「妻が家事を担うのがあたりまえ」という社会通念です。このような固定観念は、高齢の女性に過剰な負担を強いるだけでなく、周囲からの支援を求めにくくする要因にもなっています。介護サービスの利用をためらったり、家族に相談できなかったりするケースも少なくありません。

別々の施設入所:74歳女性の苦悩と決断

別の事例では、74歳のPJさんが、97歳の父親と95歳の母親を別々の施設に入所させた経験を語っています。PJさんは長年、両親の在宅介護を続けてきましたが、高齢になるにつれて両親の介護ニーズは増大し、PJさん自身の負担も限界に達していました。

PJさんは10年以上、多忙な生活の合間を縫って両親の生活を支えてきました。3人の孫の育児支援やNPO活動にも積極的に参加するPJさんにとって、両親の介護は大きな負担であり、葛藤を抱えていたといいます。

尊厳を守るということ:親の意向と現実の狭間で

PJさんは、両親の「最期まで自宅で過ごしたい」という強い希望と、現実的な介護の難しさの間で板挟みになっていました。親の尊厳を守ることと、現実的な生活のバランスをどのように取れば良いのか、PJさんの苦悩は多くの介護家族が抱える共通の課題と言えるでしょう。

長年両親を説得し続け、最終的には父親を拝み倒して、別々の施設への入所を決断したPJさん。この決断は、親の意向を尊重しつつ、現実的な解決策を見出すための苦渋の選択だったにはずです。

介護の未来:社会全体で支える仕組みづくり

これらの事例から見えてくるのは、高齢化社会における介護の難しさです。老老介護の問題は、個々の家族の問題にとどまらず、社会全体で解決していくべき課題です。介護サービスの充実や、介護者への支援体制の強化など、社会全体で高齢者を支える仕組みづくりが急務となっています。

高齢者自身の意識改革も重要です。介護サービスの利用に抵抗感を持つ高齢者も少なくありませんが、積極的にサービスを利用することで、自分自身の生活の質を維持し、家族の負担を軽減することに繋がるはずです。

より良い介護の未来を目指し、社会全体で考えていく必要があるでしょう。