イギリス政府は2025年度の国防予算削減の一環として、軍艦やヘリコプター、ドローンなど多数の装備の退役を決定しました。この記事では、その背景や影響について詳しく解説します。
緊縮財政下での苦渋の決断
イギリス政府は、財政健全化を目指し、国防予算の大幅削減を迫られています。ジョン・ヒーリー国防相は議会で、老朽化した装備の退役により今後5年間で5億ポンド(約900億円)の削減を見込むと発表しました。この突然の発表は野党からの批判を招きましたが、政府は各軍指揮部や戦略国防見直し(SDR)担当者との協議を経て決定されたと説明しています。NATOなどの同盟国にも情報提供を行い、継続的な意見交換を行っているとのことです。
alt: 退役予定のアルビオン級上陸艦。威風堂々とした姿も、間もなく見納めとなる。
海軍:上陸艦や護衛艦が退役へ
海軍では、アルビオン級上陸艦「アルビオン」と「ブルワーク」が年末に退役予定です。ヒーリー国防相によれば、これら2隻は事実上既に退役状態であり、帳簿上の維持だけで年間900万ポンドもの費用がかかっていたとのこと。代替として、新型の多用途支援艦(MRSS)の導入が計画されています。
また、23型護衛艦「HMSノーサンバーランド」も構造的な損傷により修理費用が高額となるため退役が決定されました。後継艦として、新型の26型護衛艦が配備される予定です。さらに、長期間運用されていないウェーブ型給油艦2隻も退役し、タイド級タンカーがその役割を担います。
空軍:ドローンとヘリコプターの退役
空軍では、ウォッチキーパーMK.1ドローンの退役が決定されました。このドローンは開発の遅延や費用超過、墜落事故などの問題を抱えていました。2014年に就役し、アフガニスタンでの任務に投入されましたが、その後の軍事作戦には参加していません。
さらに、老朽化した大型ヘリコプターCH-47チヌーク14機とPuma HC2ヘリコプター17機も退役となります。CH-47は2027年からH47ER(ボーイングCH-47Fのイギリス仕様)に、Puma HC2の一部はエアバスH145に置き換えられる予定です。しかし、10億ポンド規模の中型ヘリコプター(NMH)事業の選定が難航しており、残りの機体の後継機種は未定です。
専門家の見解
英国王立防衛安全保障研究所の軍事科学責任者、マシュー・サヴィル氏は、今回の退役対象は老朽化が進み、準備水準が低い、あるいは追加投資の価値がない装備が中心だと指摘しています。国防予算の削減は、イギリス軍の装備近代化に大きな影響を与えることは避けられないでしょう。
国防力への影響と今後の展望
今回の国防予算削減とそれに伴う装備の大量退役は、イギリスの防衛力に一定の影響を与えることが懸念されます。政府は、最新鋭の装備への投資を優先することで防衛力の維持・向上を図るとしていますが、その実現には課題も少なくありません。今後の戦略国防見直し(SDR)において、より具体的な計画が示されることが期待されます。