政治の舞台で混乱が生じると、国会や経済界、地域社会に至るまで、「怪文書」と呼ばれる出所不明の情報が出現することがあります。現在、「造反議員リスト」と称される文書がSNS上で急速に拡散され、そこに名前が挙げられた26名の議員が対応に追われる事態となっています。臨床心理士の岡村美奈氏は、出所不明の怪文書であっても疑惑を否定する際に効果的な「真実性の錯誤効果」について解説し、この問題の根深い側面を浮き彫りにしています。
政治を揺るがす「造反議員リスト」の拡散とその背景
真偽不明の「首相指名”造反議員リスト”」は、X(旧Twitter)などのSNS上で広範に拡散されています。立憲民主党の有田芳生衆院議員がこの文書をXに投稿し、「実際には具体的にさらに進んでいます」との見解を示したことで、その影響は一層拡大しました。リストに名前が挙がったのは26名の自民党議員ですが、彼らは次々と自身のXアカウントを通じて「デマだ」「偽情報が出回っている」「根拠のない情報」と否定し、「造反しません」と火消しに奔走しています。
このリストの出所は依然として不明なものの、その背景には、派閥政治への逆戻りが指摘された高市早苗自民党総裁の党執行部人事に対する不安や不満、さらには公明党との連立離脱の可能性といった、自民党内外の複雑な政治状況が影響していると推測されます。偽情報には首班指名選挙を巡るいくつかのシナリオが記されていますが、高市総裁以外に投票し自民党が下野するような事態になれば、造反した自民党議員に具体的なメリットがあるとは考えにくいのが実情です。それでも、政権交代さえ囁かれるほどの事態に、野党に政権を取らせたい、あるいは自民党を分裂させたいと願う何者かが、自民党に揺さぶりをかけるためにこの「リスト」を作成した可能性も指摘されています。
自民党総裁に就任した高市早苗氏、疑惑の造反議員リスト問題に揺れる政治状況を背景に
リストアップされた議員たちにとっては、党への信頼が揺らぎかねない重大な事態ですが、彼らが選ばれた明確な理由は不明です。目立った共通点はなく、知名度の低い議員もいれば、過去の失言で大臣を辞任した議員、あるいは総裁選挙で小泉進次郎氏を支持した議員など、多様な顔ぶれが並んでいます。深澤洋一議員はXで「デマ情報」と否定しつつも、「本人から聞かないと分からないという電話が複数事務所にかかってきて」と、その対応に追われる様子を投稿。関係者でさえ、真偽不明と分かっていてもやはり確認せずにはいられない、という心理が働いていることが伺えます。
「真実性の錯誤効果」と信頼の心理学
臨床心理士の岡村美奈氏は、たとえ出所不明な情報であっても、繰り返し見聞きすることで「真実であるかのように感じてしまう」心理現象を「真実性の錯誤効果(Illusory Truth Effect)」として解説しています。これは、リストに名前が載った議員たちが「デマだ」と繰り返し否定せざるを得ない状況の根源にあると言えるでしょう。否定すればするほど、その情報に触れる機会が増え、結果的に「何かあったのではないか」と疑念を抱かれるリスクが高まるという皮肉な状況です。
このような状況下で、議員たちの信頼度がどのように認識されるかは重要な問題です。人物像の詳細が不明であるため、まずは外見からの信頼度について考えてみます。信頼度が高い顔つきに関する研究によると、「平凡な顔」ほど信頼感が高いとされています。個性的で特徴的な顔よりも、平均的な顔立ちであるほど、人は無意識のうちに信頼感を抱きやすい傾向があるのです。この基準でリストに名前のある議員たちの顔を見てみると、多くが個性的な顔立ちというよりは、平均的で親しみやすい顔立ちに近いように見えます。この点から言えば、彼らの見た目からの信頼度は決して低くないと言えるでしょう。しかし、根拠のない情報が一度拡散されると、そのような見た目の印象だけでは払拭しきれない疑念が生まれてしまうのが、今日の情報社会の課題です。
結論
今回の「造反議員リスト」の拡散は、情報化社会における政治の脆弱性と、デマ情報が個人や組織の信頼をいかに揺るがすかを浮き彫りにしています。出所不明の怪文書が持つ影響力は、単なる噂話では済まされないレベルに達し、実際に議員たちが対応に追われるという混乱を招いています。政治家にとっては、真実性の錯誤効果を理解した上で、いかに効果的にデマを否定し、国民の信頼を維持するかが問われています。これは、情報リテラシーが社会全体に求められる現代において、政治と情報の関係性を改めて見つめ直すきっかけとなるでしょう。
参考文献: